秘密〜蒼い天〜-1
1 秘密
〜蒼い天〜
『エイズなんだ』
声が頭の中で谺す。
ーなにを、いっているのだろうー
「ー・・・妃」
ー先生の声
「・・・・すまない」
「先生・・?」
ー何故謝るの?
「すまない」
静かな音楽室にその声はとても大きく響く。
「・・どぉ、して?」「え?」
突然の言葉に、驚いたように私を見た。
「どうして謝るの?」
「妃・・・?」
「謝る必要なんか、無いよ」
先生に近付き、ぎゅっと袖を掴む。
自分でも震えているのが分かった。
「っ・・妃・・・」
「私は、先生が好きです」
先生の言葉をさえ切り、じっと見つめる。今まで言えなかったことを言えて、何だか少しすっきりした。
先生が、大きめの瞳を更に大きく見開いて見つめてくる。
「妃・・・・・、ダメだ」
手をほどこうとしてきた。
「どうしてですかっ!?」
袖を持つ力を強くする。
「どうして・・・っ。ー・・私が子供だから相手には為らないんですか?それとも、教師だから?ー『エイズ』だから・・・っ?」
先生が困ったように私を見つめてきた。
「全部だよ」
「っじゃあっ、何でその事を教えてくれたんですか!?」
涙が出ないように、上を向きながら話す。
「それはー・・」
「『好きだから』」
不意に第三者の声が入った。
「「!?」」
私と先生が、驚いて声の方を向く。
「翔!?何でここに」
ー美沙子さんのお兄様?
「何でって、『楸先生の友人』って言ったら、入れてくれた」
それが当然のごとく話す。
「お前、いつから居たんだ?」
つかつかと美沙子さんのお兄様に近付き、問掛けた。
「菖ちゃんが、和馬の袖掴むトコぐらいから」
ーつまり、ほぼ全部。
聞かれていたことが分かり、顔が熱くなった。
「和馬、も少し素直になれよ」
な?と先生の肩を叩く。
「お前は、もう少し場の雰囲気を考えろ」
その手を振り払うように、先生が睨んだ。
「あの・・ー」
何となく忘れられている気がして、話しかけてみた。
「妃」「菖ちゃん」
「え?」
突然二人に真顔で話しかけられ、思わず間抜けな返事をしてしまった。
「和馬の何処が良いわけ?こんな堅物より、もっと良いヤツ居るよ。俺とか」
先に口を開いたのは、美沙子さんのお兄様―翔さん。
「え」
「妻子有るヤツが何言ってんだ。加那に言っとくぞ」
「げっ。ゴメンて、すまん」
ぱんっ、と両手を合わせた。
『加那』さんと言うのが、奥さんなのだろうか?謝りながらも、笑顔なのだから、相当好きなのだろうと言うことが分かった。