投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

お蓮昔語り
【その他 恋愛小説】

お蓮昔語りの最初へ お蓮昔語り 1 お蓮昔語り 3 お蓮昔語りの最後へ

お蓮昔語り〜其の一『桜』〜-2

「それが、何か?」
乱れた着物を撫で付け直し、私は、顔を上げて壬生狼を睨んだ。
先刻から、遠巻きに見守る人たちの視線に晒されながら。
逆らっちゃあかん・・・と、ざわめく空気が伝えるけれど、見ず知らずの男に素性を話すほど私も馬鹿な女じゃない。
「いや、気分を害してしまったのなら申し訳ない。
 自分も江戸の生まれなもので、向こうの言葉は懐かしく思えて・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
そういえば。
叔父と叔母がそんなことを話していたっけ。
血に塗れた壬生狼がどこから来たのかなんて、興味がないからほとんど聞いてはいなかったのだけれど。
「巻き込んでしまって、こちらこそ申し訳なかった」
やがて、返す言葉の見つからない私に軽く会釈をして、男は脇を通り過ぎていった。
すれ違いざまに届いたのは、鼻をくすぐるどこか懐かしい匂い。
春霞に煙る淡い空。
風に吹かれて舞い散る桜の向こうには、小さくなる鮮やかな浅葱色の背中。
(壬生狼か・・・)

それが、私の一生を掛けた恋の始まりだった。
今でも鮮やかに思い出す。
激しく揺れ動いた時代を全力で駆け抜けたーーー
あの人の、笑顔を。


<其の一 終>


お蓮昔語りの最初へ お蓮昔語り 1 お蓮昔語り 3 お蓮昔語りの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前