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はるかぜ
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隣人は雨の香り-9

「もう鍵忘れるなよ」

慌てて板を踏みつけながら、ベランダへと歩く。自分の部屋の窓を開け、雨水さんを振り向いた。

「あの、本当にありがとうございました。今度は私が助けますねっ」

頭を深々下げてそう言うと雨水さんは手をひらひら振った。

「ん、そのうちね。あと、あんまり見知らぬ男の家に上がったらダメだよ。また俺が居るとき遊びにおいで、ベランダ越しにね」

「え?!」

思わず部屋に入ろうとしていた動作が止まる。

雨水さんはにこにこ笑いながらもう一度言った。

「いつでも遊びにおいで。引っ越し早々鍵を忘れるなんて、面白いから。気に入っちゃった」

胸がドキドキして死にそう。

「は、はい!」

大きく頷いて頭を下げる。

「じゃあまたね」

ひらひらと手を振って雨水さんは部屋の中に消えた。

私はしばらく放心状態でベランダに立ち尽くし、くしゃみがひとつ出て、慌てて部屋に引きあげる。

「雨水さん……が、お隣さん、で、ベランダが続いてて?」

ふらふらと廊下を歩きベッドルームに入る。
たった数時間前にシーツを敷いたベッドにそのまま倒れ込むと着の身着のまま布団に潜り込んだ。

「雨水さんの家に?遊びに……行って、良い」

笑みが浮かぶ。

数時間前まではこの世の不幸を全部背負ったみたいに気分が落ちていたのに、今の私の心には、元気一杯に動かせる羽根がついてる。

明かりもつけたまま私は幸せ一杯な気分でそのまま朝を迎えた。


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