十六の春〜サクラフブキ-3
『ゆ…う……?』
周りの大人達は気付かないふりをしているのか、それとも興味がないのか全く此方を見ようとはしない。俺は真理の耳元にそっと――本当にそっと囁(ささや)いた。
「必ず…必ず迎えに行くから。何年経っても。何があっても……必ず迎えに行くから」
『ゆうぅ……』
目頭が熱くなる。限界だった。
だから、待ってて――
無理矢理真理を引き離して新幹線の入口に押し込む。もう、何も言えない。ドアが閉まると、真理は泣きながらずっとドア越しにこちらを見ていた。
男らしく別れようと決めていた。絶対に泣かない。笑って送り出す。それが、俺が真理にしてやれる最良の選択なんだ。
新幹線のベルが鳴る。
真理は涙で顔がくしゃくしゃになりながら、それでも必死に笑顔を作ろうとしていた。
倣(なら)って俺も笑顔を作る。お互いに手を上げ、親指以外の四本を二度、閉じて開いた。
さよならをする時の、俺たち二人だけのサイン。
待っててくれよ、必ず……。
新幹線が動き出した。
俺は走った。ホームの端まで。
真理がなにか口を開いていたが、それは新幹線の音にかき消された。
行っちまった。
涙で視界がにじんだ。
「真理…真理っ……うわぁあああッッ!!!!」
膝をつく。誰が見てようがしったことか。俺は馬鹿みたいに泣いた。
ひとしきり泣いて駅を後にする。さっき来たばかりの道を戻ると、やはりまだ桜が広がっていた。
サァッッ……
風が吹いた。
「桜吹雪か……」
絶対に、いつかまた会えるよな……。
俺は桜並木の道を歩いていった。