正夢〜幸福-6
『また来るからな!』
「来んでいい」
『高瀬さん、ごちそうさまでした』
『大丈夫だよぉ。気にしないで』
食事が終わり、後片付けをする。作業が終わると、みんなは帰っていった。
「先に風呂使っていいよ」
『ありがと、先に入るね』
恵はそう言うと、リビングから出ていった。
恵は全く俺を警戒していない。俺がこんなにも苦悩していることなど毛程も感じていないだろう。
(翔……)
再び邪な感情が姿を現す。だが、今はそれを振り払う事が出来なかった。
(俺に任せろよ……お前だって本当は俺に任せたいんだろう?)
誘惑の言葉を必死に耐える。だが、幻が放つ言葉はぐわんぐわんと俺の中で反響していた。と……。
『翔ちゃん、あがったよ』
一体どれほど悩んでいたのだろう。気が付くと、もう恵は着替を済ませ、リビングへとやって来た。
「ああ、悪い」
『……なんか、寂しくなっちゃったね』
恵がぽつりと呟く。確かに、うるさい仲間たちがいなくなった家は、少し寂しさを漂わせていた。
俺は、恵がこの家に来た理由を思い出した。恵は怖いのだ。一人でいるのが。渉たちを呼んだのも、恥ずかしいのを我慢して俺の家に来たのも……。
下心を全開にしていた自分が恥ずかしくて、直ぐにリビングを飛び出した。さっさと服を脱ぎ、風呂場に入る。速攻で熱いシャワーを浴びて、自分の心を静めた。
リビングに戻ると、恵はテレビを見ていた。バラエティ番組なのだろう。その横顔は笑っていた。
恵は、俺が来たことに気付くと、テレビのチャンネルを回し始めた。しかし、すぐにその指が止まる。
『あ……』
テレビ画面には、今度はホラー映画ではなく、心霊番組が流れていた。
恵は怖がりなのだが、よくこういう番組を見る。昨日の映画も、両親がまだ家にいたから見ていたのだろう。
俺は仲間内では、一応強い部類に入る。
恵は何度も心霊番組と他の番組を行き来している。