正夢〜幸福-3
『パパも、今週末は仕事がないみたいだから』
それで送り出したはいいが、昨日の夜に見たホラー映画を思い出してしまい、一人でいたくないらしい。
「いいよ」
『やった!』
「そのかわり、ウチも親いないぞ」
『平気平気!ごはんは私が作ってあげるから!』
そういう事じゃねえだろ……。恵は、よく言えば天然。悪く言えば鈍感だ。深い意味を理解していないらしい。
恵の横顔を見ると、一人で眠る心配がなくなったからか、やたらと上機嫌だ。
小さくぴょんと跳ねながら、鼻唄交じりに歩いている。
恵と一緒……。
親は不在……。
(翔!チャンスだぜ!アタックチャンスだ!)
俺の中の邪(よこしま)な感情が目の前に現れた。(当然恵には見えないが)
(翔!今日しかないぞ!さぁ、俺にその体を任せろ!)
「黙れ!俺のことだ、俺が決める」
(俺に任せれば、本能を解き放ってやるぞ!それはもう激し……)
「セイ!」
これ以上誘われたら危険だ!目の前の幻影を必殺の拳で砕く。
(や、やめろ!そんなことをしても……)
「セイ!セセセイ!」
世紀末救世主伝説も真っ青な速度で拳を突く!突く!突く!!
幻影は木ッ端微塵に吹き飛び、消え去った。(正確に言えば、疲れて何も考えられなくなっただけだ)
一通り拳を振り終えると、恵がキョトンとした顔でこちらをみつめている。
『翔ちゃん、どうしたの?』
「い、いや恵が泊まりに来るなんて楽しみだなってな!体で表現したんだ」
『うん、私も楽しみだなぁ』
「はぁ……」
待て、と言われて餌を我慢できる犬は本当に偉い。そんなことを考えながら俺と恵は学校へと向かった。
『なぁ翔』
「なんだ?」
『気持ち悪いぞ』
「ほっとけ」
昼休み。仲間の渉(わたる)と昼飯を買いに行ってると、急に指摘された。
どうやら、恵が泊まりに来ることで、俺の顔は弛みっぱなしらしい。