パレット 『夏でも小春日和』-1
「お、あーきら!おはよう」
…………
「…晶?」
…………
「無視するなよ」
「おはよう。アキ」
朝っぱらからこんな態度じゃいけないのにな。
何だろう。あの夜から俺は昌仁を避けるようになっていた。
近寄ってくる昌仁につい冷たい態度をとってしまう。自分でも意味がわからない。
その時、俺の手を掴んで引っ張られる感じがして、よろめきつつ席に座らされた。
昌仁から遠ざけるみたいに。
「‥おい?!あ、カステラ屋さん…」
俺を席に座らせたのは任明堂 白匠(ニンメイドウ シラナリ)。
多分親友。。
「カステラ屋じゃねぇから!うちはコレでもCD屋だから」
カステラ屋なのは苗字があの大手カステラメーカー(?)《文●堂》に似ているから。一文字変えればである。
しかしもう一つある。
それはかの有名ゲーム会社《任●堂》。
どっちにしろこいつはCD屋なので、そのギャップもまたよかったりする。「ああ!!そうきたかー」
頭によぎるCDショップ名《新星●》
大袈裟に悔しがって見せる。
白匠は俺の背後にまわり抱き付く形状で、首に腕を組ませてきた。
騒めいていた教室が一瞬静かになった気がした。違う。これは抱き付きじゃない。
「そんなことはどーでもいーの。それより晶。何だかてめぇ今日は昌仁くんと仲が宜しくないんじゃないか?もっとイチャつけよ。こっちはそれを楽しみで学校来てるよーなもんなんだからさ」
何言ってるんだこいつ。頭でも打ったのかなー。「な、何言ってんだよ。イチャつくって、別にイチャついてなんか――」
「ええ?はぐらかしても無駄さ。みーんな知ってるんだぜ?」
耳元で囁かれるその言葉はまるで悪魔の囁きのように聞こえたんだ。
「お前と昌仁が付き合ってる事を」
なんだか違う。現実では付き合ってるの?!俺ら。
誰かこの馬鹿に本当の事教えてやってくれぇ。
「は!?違う違う。付き合ってなんかな――ひぐぅっ」
急に首に圧迫感を感じた。
案の定。巻き着いていた白匠の腕が俺の首を締めたのだ。
ヤバい。息が
「んん、んんん〜〜ギ、ギブギブギブゥゥ!!」もがくが完全に入っている。
俺は白匠にヘッドロックを掛けられていた。
うう
まぢで意識が…
遠のい、て
「白匠っっ!!!お前やり過ぎだ!何があったか判んねーけど、もうそこら辺にしといてやれって。死にそうだし。晶」
嗚呼 この声。
好きだよ。この声。
朦朧とする意識の中俺は昌仁の悲しそうな顔を見た。
なんでそんな悲しそうな顔してんだよ。
「ちぇっ。なんだよぉ。いいじゃねえか少しくらい。つまんねーんだよぉっ」
俺の首から圧迫感が消える。
「げほげほげほ!!…っ‥‥白匠っ」
意識が戻ってきた。
くっそぉ!!
白匠 呪ってやるぅぅ。
ガシッッ
「なっ」
俺は白匠に コブラツイストを仕掛ける。
ギリギリギリ
締め付けるぜっ!
「ううううがぁっ」
白匠がギブを示すため俺の太ももを叩く。
仕方なしで放してやる。
気付いたら昌仁が俺を見下げていた。
あの悲しそうな眼で。
いたたまれなくなって俺は、眼を逸らしてしまった。
先生がやってくる。
早く、先生。
俺の心臓が異常に機能してる。だから、昌仁から離れたい。
早く来て下さい。先生
静かに席に座る。昌仁も俺に声を掛けず、自分の席へと戻っていった。