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パレット 『初恋を貴方に』
【ボーイズ 恋愛小説】

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パレット 『初恋を貴方に』-3

『ならよかった――』
ふぅっと昌仁が息を吐く。
こんな夜中に友人に起こされてくだらない夢物語に付き合って、泣きじゃくっているのを宥めなくてはいけなかったから当たり前か。
『お前も夢ぐらいで泣くなよ。最近情緒不安定だからそんな夢見んだぞ?息抜きでも行けって』
「へ?う、うん。よ、よく考えてみれば、そうだよな。もっと大人になんなきゃいけねぇのに。俺、アキに頼りっぱなしで。アキ、迷惑してんのにな」
変に動揺してる自分を半笑いで責めるように言う。
『‥‥いや。俺はこう真夜中に晶に起こされて、迷惑だなんて一回も思ったことねぇよ?今だって、お前が俺を頼ってくれて嬉しいと思ってる。ただ、この後眠れなくなるからそれが大変かな』
おい
せっかくまた一つ気付いたのに。
お前そんな事言うから。涙が振り返しただろ!
『あ、晶?何で泣いて…。俺なんか気に障る事言ったか?』
「んん、んっ……違う。っ……アキ、俺も嬉しいよ。…そう、言ってもらえて……ひぐっ……ありがとう……っ」
とぎれとぎれでも昌仁には伝わって。
俺の枕ももうびしょびしょだ。何度も何度も目尻が熱くなって、とめどなく涙が溢れて。頭の中は昌仁でいっぱいだった。俺がいつも昌仁に頼ってしまうのはその優しすぎる性格のせいなのかもしれない。
気付かなかったわけじゃない。この気持ちの正体に。
俺はずっと昌仁の事が好きだったんだ。声も匂いも何気ない仕草全部、全部昔から好きだった。
だけど最近は誤魔化そうとしてる。
まだ伝えられてない想いは胸に高く積もって、本当は限界のくせに。俺のこんな想い、昌仁には重いだけだし、もしかしたら俺は嫌われてしまうかもしれない。もうこの関係が持てなくなってしまうなんて、俺には耐えられない。そう思うから。そっといつも胸に伏せておいている。誰も知らない、胸の奥へ。
「っく……アキ、ギター弾いて……」
か細くまるで女みたいな声で俺は昌仁にねだった。
『は?!お前、こんな夜中にギターなんか弾いたら近所から苦情の嵐だよ。俺家追い出されるって』
昌仁の驚きは相当なもので、早口でその言葉は流れてきた。どうせ弾きたくないからの言い訳だろう。アコギ(アコースティックギター)なんだから多少は平気だと思うけど。よくは知らないが。
なにより、昌仁の作った曲なら誰でもすぐ気に入ってしまうに違いない。親友の俺が言うんだから保障もんだろ?
「いいから。そんときは喜んでうちに移住させてやるよ。アキ専用の居住スペースを俺の部屋に設置しましょう?しかも今なら朝食昼食、俺の手作りの夕食という規則正しき三食付き!風呂もトイレもキッチンもエアコンも完備してありますし、あ、もちろんトイレの方はウォシュレット付きですよ。プレ○テ123は勿論、○−BOX360もあります。どうです?お客さん」
つい営業トークが炸裂してしまった。
まるで昌仁にうちに是非来て欲しいみたいじゃないか。。
『…何の勧誘だよ。何だか真面目に移住したくなってきただろ……』
声のトーンが低いところから、本当に悩んでいるらしかった(笑)
鼻で笑ってしまう。
スピーカーの向こうからギターの音が聴こえてきた。音を調節している。『仕方ねぇなぁ。少しだけだからな。…あー、でもこれ弾いたら晶ん家移住できなくなるのかぁ……惜しいかも』
ううん。いいよ。別に。今すぐにでも来て。俺は大歓迎さ。
この想いは声にはならずテレパシー系の電波で発信した。気付いてください。昌仁くん‥‥乙女チックな思想とともに。
『――じゃ、泣き虫の晶に』
昌仁のギターの音は、甘いメロディーを奏でて俺の身を包んできた。ふありと包み込むギター音に酔い痴れて、身体の中心に熱いものを感じる。
昌仁―――
顔を見たくなったとこで記憶は飛んだ。


今度はあの悪夢を見ないで済んだ。
昌仁のお陰かな。


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