パレット 『初恋を貴方に』-2
じゃあな
って声聞くと尚更だからもっと抑える為にムッとした顔になって、俺のじゃあねが頼りない擦れ声になる。それを苦笑しながら昌仁は俺の反対方向へ進んでいった。最後まで見送ったら――前が見えなくなりそうで、俺は帰り道を急いだ。ほぼ全力でうぉぉーっという勢い並みな速度で自転車をこぐ。無我夢中すぎで、たまに自宅を通り過ぎることもある。今日は不思議と理性ははっきりしていたから自宅の前できちんと止まることが出来た。
両親共働き一人っ子の俺は、だからか昔からよく昌仁を借りてきては自宅に泊めて夜遅くまで遊んでいた記憶がある。
今もあの時と何も変わらない。俺も昌仁も。ずっと同じ道を進んできた。そう信じていたかった。これから先もずっと一緒さ。
夕飯は適当に自分で作ってくださいという置き手紙を睨み早速晩飯を作りはじめる。家庭的だね。なんてクラスの女子に言われる。これがフツーだろ?
その後、熱いシャワーを頭から浴びテレビには見向きもせず部屋に行く。両親はまだ帰ってこない。
いいよ。別に。平気。と意地張るなって昌仁に口癖のように言われてきたけど、親や昌仁に甘えてばかりじゃいられないし。俺も成長したかった。今じゃ一人が常だ。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。
疲れた―――
ベッドに潜り込み眠りにつくのもそんなに時間がかからなかった。
あぁあ、なんて居心地が良いんだろ
色の中は
う、うん?
何だ あれ
色が飲み込まれていく
色が消えていく
無色―――?
わからない。無色は形を変えている
いやだ
いやだ
嫌だ
俺も飲まれる
――――――――
「っぁは」
全身汗びっしょり。気持ちが悪い。
あの夢。嫌な感じが身体にしっかりと感触として残っていた。
気付いたら俺は深夜二時だというのに携帯を手に取り、夢中でボタンをプッシュしていた。手が止まらない。携帯が耳にあてられる。
数回の呼び出し音。
カーテンを擦り抜けて入り込む月明かり。黒と白の世界。
『誰?』
不機嫌そうな昌仁の声が携帯の向こうから聞こえてきた。
「っ……、アキっ、俺……」
『ん。晶?どうした、こんな夜中に』
知らないけど判らないけど目から涙が止まらなかった。微かに嗚咽を漏らししゃっくり上げる。
「ん、んん。アキ、御免。俺、さっ……っ……」『判った判った。ちゃんと聞くからゆっくり話せ』
携帯越しに頷く。
「あのさ、こわ、い……夢見て……っぃ……頭パニくってて、アキの事しか…浮かばなくてっ……」
普通ならはぁっ?!とか言われるところを昌仁はそんなこと決して言わない。
『そうかそうか。大丈夫だ。恐かったんだな。俺なら平気だから、話してみなその夢』
「うん……」
そう言われて俺は余計に涙が止まらなくなった。嬉しい。苦しみを判ってくれる友達がいるって。幸せで泣き笑いしてしまう。
俺は夢の話を恥ずかしげもなく昌仁に話した。昌仁はただうん、うんって携帯の向こうで相づちをうっていた。
『つまり色でいっぱいな世界を無色に侵食されたと。相当参ってるのかお前。大丈夫か?』
「うん。アキに話したらずいぶんと楽になった。ありがとう」
当初の頃が嘘かのように涙も引いて、俺は平常をどうにか保った。