『孤独と恋について』-2
そのもくろみが無駄であったことはすぐにわかった。女子の先輩と親しく口を聞くのは、同じく女子であるか、男子であっても同じく先輩の男子だったのだ。
ただ、テニス部に入った事自体は無駄ではなかった。僕は、かねてから欲していた、男だが、親友を得たのだ。僕は彼をタケと呼んだ。
高校に進学するとテニスとの縁は切れた。もともと、細い縁だったから仕方なかったが、タケとの交際は続くことになる。ただ、彼とののちの交際については、機会を別に譲ろう。
ともあれ、僕は親友を得たのだ。タケは、物を良く考える頭のいい人間だった。少々それを鼻にかける所があるので、周囲からは爪弾きにされたが、彼は堂々としたものだったので、僕からみればタケの方から周りを避けているように見えた。
僕は既に連中への関心をほとんど失っていたから、そんなタケとはウマが合った。また、周囲を嫌うタケが自分を認めてくれたのは嬉しかった。毎日のように2人で色々な話をした。
僕の方からは、人間の孤独や、哲学的な情報を多く含む逸話や、ときには僕の未熟な思想(当時はそれが未熟であるとは思わなかったが)を語って聞かせた。タケは世界史に興味があったので、僕の話す宗教談義に大いに耳を傾けてくれた。彼の方からは、やはり世界史のいろいろな裏話を仕入れては聞かせてくれ、僕の、文字通りだが《世界》を広げてくれた。
もちろん、僕らは堅苦しい話ばかりをしていたわけではなくて、適当に品を欠いた下らない話もした。彼はジョークが上手で、たくさん教えてくれた。ひとつ紹介しよう。彼の一人二役で展開するのだが、その演技が馬鹿らしくて、僕は好きだった。
「ドクター!息子を診てやって下さい!息子がコレラにかかったんです!」
すると、タケは体の向きを変えて、
「それは大変です。すぐに診ましょう。」
とドクター役。
「ところがドクター、悪いことに息子は風俗店でキスをしてうつされたらしいのです!」
「それは大変だ。感染拡大の危険がある。」
「ドクター、実は、悪いことに私もその風俗店の常連なのです!」
「それでは貴方にも、うつった可能性がある。」
「ドクター、さらに悪いことには、私はその後、うちの女房ともキスをしたんです」
そのあとのドクターのセリフで落ちとなる。
「なに!?それでは私も感染したのか!」
ピンクジョークが飛び交うようになればもう怖いもの無しで、僕らは次々に話題をひっぱり出した。やがて、興味は異性に関するものにも飛び火した。
一口に異性に関するものと言っても、僕らにはそれぞれ得意なジャンルがあって、僕は性、タケは恋に詳しかった。
その当時、タケは好きな女の子がいて、なんとかその子を振り向かせようと、色々な努力をした。僕はと言えば色気のある話に憧れながらも、とくに興味のある女の子がいなかったので、陰からタケの応援をするくらいだった。そして、僕の応援が功を奏したかは知らないが、果たしてタケは恋人を獲得した。
このとき同時に、タケが一番多く時間を割く相手が、僕から彼女に移り変わったので、そのための喪失感と言うのはあった。だが、たまにタケと再会したときに、今までとは違う趣きのことを言うタケからは学ぶ所があった。タケは彼女を大事にしているらしく、聞いていて、すがすがしかった。