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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-5

「最近はそうでもないと思うけど……付き合い始めた最初の頃は、色々と迷惑をかけたと思う」
「そんなの……!龍之介個人がかけてきた迷惑じゃないもの!私、気にしてないよ!」
 慌てて口を挟む美弥を見て、龍之介は微笑む。
「ありがとう。でも、トラブルに巻き込んだのは事実だし……結構その事、気にしてたんだ。今日これで、スッキリした」
 笑みを強くすると、龍之介は言葉を続けた。
「その……色々あったけど、僕の気持ちは変わらない」
 一瞬考え込んだか、龍之介の眉間に皺が寄る。
「君も知ってるとは思うけど……ずっと、考えてきた事なんだ」
 見る間に、龍之介の頬が赤くなった。
「今まで、たくさん支えて貰った。愛して貰った。けど……贅沢で貪欲で不安な思いが、どうしても払拭できない」
 ぎゅ、と差し出した片手に力がこもる。
「君といつか、離れてしまうんじゃないか……ってね。それを打ち消してしまうのに、一枚の紙が欲しい」
 ごく、と美弥は唾を飲み込んだ。
「誤解しないで欲しいんだけど、紙は紙だ。でも……薄っぺらくて破れやすいその紙は、僕が何より欲しい権利を与えてくれる」
 龍之介は、美弥の手を取る。
「そしてその権利を手に入れるためなら、僕は躊躇いなくこう言える」
 手の平に、何かが落ちた。
「結婚しよう、美弥……一生添い遂げる権利を、僕に下さい」
 
 
 台詞が脳ミソに染み込み、手の平に落ちた物体が何なのか美弥が理解できるまで、一堂は固唾を飲んで見守った。
 やがて美弥は、床にぺたんとへたり込む。
 うつむいているので、その表情は分からない。
「美弥……」
 龍之介が、美弥を抱き起こした。
 一堂は、美弥の表情に注目する。
 たった今プロポーズされた当人は、頬を濡らしていた。
 嬉し涙というよりも混乱して訳が分からなくなり、とりあえずストレス軽減のために流されている涙のようである。
「駄目……かな?」
 喉の奥から振り絞られた声に、美弥はかろうじて分かる程度に首を振った。
「駄目じゃない……嫌じゃない……」
 しゃくり上げながら、美弥は言葉を紡ぐ。
「でも……」
「でも?」
 不安げな龍之介へ、美弥は体を預けた。
「こういうの、まだ早い……せめて二十歳まで……」
「二年も待てなかったんだよ」
 安堵と喜びが胸の奥から湧き上がってくるのを感じながら、龍之介は言う。
「今まで以上に離れてしまうから、今まで以上に確かな絆が欲しかった」
「うん……」
 どうやら、涙が嬉し涙に変わってきたようだ。
「プロポーズ……受けてくれるかい?」
 美弥は……泣きながら、何度も頷く。
 部屋の中に、歓声が満ちた。
「さあ!忙しくなるわよ!」
 きびきびした声を、彩子が上げる。
「さ、美弥。着替えて来なさいね」
 言われた事が理解できなかったせいか、美弥の涙が引っ込んだ。
「え……?」
「これから結婚式よ。ドレスアップしない花嫁なんて、恰好がつかないじゃない」
 反射的に、美弥は龍之介を見る。
「間を置きたくなかったからね」
 龍之介は、ニヤリと笑った。
「本物の結婚式はもう少し大人になってからという事で……今の僕にできるだけの結婚式を、用意させて貰ったんだ」
「それじゃ……!」
 レストランのスタッフが働いていたのは、結婚式の準備中だったせいらしい。


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