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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-4

「やあ」
 美弥の姿を認めると、恋人の兄は片手を上げて挨拶した。
「こんにちは」
 平然と挨拶すると、竜彦は片眉を跳ね上げる。
「驚かないね」
「今日はこれから色々ありそうなので、いちいち驚くのは止めました」
 竜彦までもが企みに加担していたと知り、不機嫌になった美弥はそう言ってやった。
「いい心掛けだ。確かに、色々あるからね。乗って」
 そんな態度を受け流し、竜彦は運転席に乗り込む。
 美弥が助手席に乗ると、レンタカーは軽快に走り出した。
「免許、持ってたんですね」
 美弥の台詞に、竜彦は微笑む。
「車を持ってないし、ペーパードライバーだよ」
 そう謙遜しているが、車の滑らかな走りからは熟達したドライビングテクニックが感じ取れた。
 もしかしたら龍之介と同じく、一度やってみた事は器用にこなせてしまう特技の持ち主なのかも知れない。
 兄弟でここまで姿形がそっくりだと、特技だって似てきたりするのかも……と美弥は思う。
「で、私はこれからどこへ連れて行かれるんでしょうか?」
 そう問うと、竜彦は微笑んだ。
「ラ・フォンテーヌまでね」
 
 
 モダンな造りの出入口から店内に入ると、美弥は驚かないと決めていたのに驚いてしまった。
 スタッフ一同が、忙しく働いている。
 何かの腕章を着けた男女が二組、その隙間を縫って写真撮影をして回っていた。
「とりあえず、君はこっちね」
 竜彦は美弥を、別室へ案内する。
 普通ならば個室として提供されているその部屋には、両親と友人達が勢揃いしていた。
 そしてその中央に、龍之介が。
「み、みんなぁ?」
 狼狽した声を出しながら後ずさる美弥だったが、背後に竜彦がいたので部屋の中へ押し戻されてしまう。
「ど、どういう事ぉ?」
 戸惑う美弥へ、龍之介は握った片手を差し出した。
「凄く……鼻で笑われるくらいに、馬鹿げた事かも知れない」
 そう喋り出した龍之介の表情は滑稽に見えるくらい真面目で、美弥は息を詰めてしまう。
「でも、これは僕自身が考え出した事だから……笑わないで聞いてくれると、助かる」
 この状況で笑うというのは、ありえない。
 そう考えてこっくり頷いた美弥を見て、龍之介は胸を撫で下ろした。
 そして、ゆっくり口を開く。
「その……あ〜〜〜〜っっ!!」
 いきなり龍之介が絶叫したので、その場にいた全員が驚いた。
「この日のために色々考えたのに!ぜぇ〜んぶ忘れた!!」
『ありゃあ』
 お約束のように、その場にいた美弥以外の全員がずっこける。
「い……一体、何を言う気だったの?」
 ずっこけそこねたようにやや体がかしいでいたが、美弥はそう尋ねた。
 問われた龍之介は頭をぶんぶん振り、気を取り直す。
「その…………出会ってから、色々あったよね」
 忘れてしまった事に固執しても意味がないと思ったか、龍之介は即興で喋り始めた。


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