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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-6

「わ、私……何も準備してない!」
 慌てる美弥へ、巴が言う。
「だぁ〜い丈夫!必要な事は、美弥ちゃん以外のみんなでぜぇ〜んぶ準備したから!」
 言われた美弥は、一瞬意識が遠くなるのを感じた。
 ここまでスケールの膨らんだ計画を全く知らなかった自分が、凄まじいまでの間抜けに思える。
「ウェディングドレスは、私が準備したわよ!」
 部屋の隅にいた楓が、声を張り上げた。
「……あ!」
 何秒かして、美弥が声を上げる。
「もしかして、文化祭のモデルって……!」
「ピンポーン」
 悪戯っぽい口調で、楓は言った。
「ウェディングドレスのために、サイズを調べたかったの」
「龍之介ぇ……」
 驚く気力も怒る体力もなくなった美弥は、ただ龍之介に視線をやる。
 笑みを含んだ視線で、龍之介はそれに答えた。
「それじゃあだいたい驚いた所で、着替えて来ていただきましょうか。花嫁さん」
 
 
 楓が多方面から手を借りて作り上げた純白のウェディングドレスは、Aラインの優雅なデザインだった。
 ベールは巴のもの、アクセサリーは彩子のものをそれぞれ借りる。
 小振りのラウンドタイプにまとめられたウェディングブーケは、白い薔薇の間から可愛らしい青い花が覗いていた。
 サムシング・ニュー(何か新しいもの)。
 サムシング・オールド(何か古いもの)。
 サムシング・ボロー(何か借りたもの)。
 サムシング・ブルー(何か青いもの)。
 これらを身に着けて婚礼を行った花嫁は幸せになれるという言い伝えを、龍之介はきちんと考慮してくれている。
「そういえば、このブーケって……どこに頼んだんですか?」
 美弥の髪を纏めながら、遅れてやってきた瀬里奈と共に本日のメイクアップ係を務める女性が答えた。
「近所の、懇意にしてる花屋さんにね。ここはレストランだから、テーブルには花を飾るでしょう?ドレスとよく合うセンスのいいブーケを、お友達と相談してデザインしたのよ」
 喋りながらも髪を綺麗に纏め、女性は瀬里奈と相談しつつメイクを始める。
 この女性、何でもここに就職する前はとある化粧品メーカーの美容部員をしていたとかで、プロ並みの腕を持つ瀬里奈がいい勝負だった。
「ところでこんな時に聞くのも何なんですけど……」
 だいたいメイクが終わった頃、美弥は女性に質問をぶつける。
「竜彦さんとは、どうなってるんですか?」
 女性……待山佳奈子は、思わずずっこけた。
「ど、どうって……」
 問い返された美弥は、眉間に皺を寄せる。
「だって……これで婚姻届けを出したら、十も離れた弟の方が兄より先に結婚しちゃう訳ですし……」
 竜彦の人生に寄り添う女性がこの人だと一目で気付いた美弥は、躊躇いがちにそう言った。
 そんな問いに、佳奈子はくすくす笑う。
「私達には私達のペースがあるわ。高崎さんに逃げる気は全然ないし……大丈夫よ」
 それを聞いて安堵したか、美弥は微笑んだ。
「はい、お義姉さん」
 言われた佳奈子はきょとんとした顔になり……次いで、真っ赤になる。
「やだ、そんな……」
「だってそうじゃないですか」
 確かにそういう事を考えなかったと言えば嘘になるが……いざ義妹になろうという人物からそれをほのめかされると、赤面する以外に道はなかった。
「それとも、お義姉さんて呼ばれるのは嫌ですか?」
「いいえ、嬉しいわ」
 佳奈子は笑顔になると、美弥の頬に触れる。
「とっても綺麗よ、花嫁さん」
 華美に走らず花嫁の魅力を十分に引き立てるメイクは、花婿を骨抜きにできそうだった。
「さて、高崎君はとっくに準備できてるでしょうし……迎えに行ってくるわね」
 メイク道具をしまいながら、瀬里奈が言う。
「ん」
 龍之介を迎えに行くべくドアを開けた瀬里奈が、硬直した。


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