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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-13

「ひ……っ」
 いきなりぐるりと回転させられ、美弥は小さく声を上げた。
 向き合った夫は、妻の瞳を覗き込んでくすりと笑う。
「ん……」
 優しい口付けに、美弥は全身から力が抜けていくのを感じた。
 堪らず、青年の首にしがみつく。
 背中を壁に押し付けさせて安定を得ながら、龍之介は何度もキスを落とした。
「んん……ん……」
 可愛い声が、新妻の唇から漏れ出る。
「……?……」
 しばらくして、美弥は不審そうに龍之介を見上げた。
 キスから先に行為が進まないのは、一体どういう事かという目付きである。
「何と言っても、初夜ですから。最高に綺麗で可愛いとこ、見せたいだろ?」
 唇を離した龍之介は、笑いながらそう言った。
 言われた美弥はきょとんっ、とした顔になる。
 だが次の瞬間、くすりと笑った。
「こんな時に……ううん。こんな時だからこそ言いたい事があるんだけど、いい?」
「ん?」
「……初めては全部、龍之介にあげたかった」
 龍之介は何も言わなかったが、ただ少し驚いた表情を見せる。
「無い物ねだりなのは分かってるけど……でも」
 唇に指を当て、龍之介は先の言葉を封じた。
「僕とするのは初めてだった。それで十分だよ」
「ん」
 美弥は思わず、龍之介に抱き着く。
 付き合い始めた頃からひそかに抱いてきた思いを吐露できた事が、それを受け入れてくれた事が、物凄く嬉しい。
「じゃ、シャワー浴びる?」
「ん」
 
 
 龍之介が浴室から出ると、美弥は窓際にいた。
 すっかり暗くなった空が……そして夜景が、外に広がっている。
「美弥」
 声をかけると、バスローブ姿の美弥が振り向いた。
 夫を見ると何故か頬を赤らめ、背を向けて再び夜景と向き合う。
 龍之介はくすりと笑みを漏らし、美弥の後ろへ行った。
「疲れてない?」
 びく、と美弥の肩が震える。
「……ん。大丈夫」
「そっか」
 やはり美弥が緊張していると感じ、龍之介は思案した。
 が、緊張をほぐすためにしてやれる事は限られている。
「!」
 龍之介は、美弥の体に腕を巻き付けた。
 華奢なくせに柔らかく、内側にある骨の存在が感じられない。
「龍之介……」
 呟いて、美弥は後ろへ体を預ける。
 
 とくっ、とくっ、とくっ……
 
 互いの鼓動が、重なり合った気がした。
「りゅう……」
 呼び続けてきた愛しくも特別な名を呟いた瞬間、自分を抱き締める腕に力が籠る。
 美弥は、その腕を握り返した。
「ありがと。もう……大丈夫だから」
「うん」
 抱擁が解かれると美弥は窓際を離れ、ベッドに腰掛ける。
 それから両腕を伸ばし、龍之介を迎え入れる姿勢を示した。
 微かに口元を緩ませた龍之介は、美弥の隣へ腰掛ける。
 優しく細い肩を引き寄せてから顔を近付けると、美弥は目を閉じた。
 優しく……だがしっかりと、互いの想いを口付けで確かめ合う。
「ん……」
 吐息を漏らす美弥の唇を貪りながら、龍之介は体を倒した。
 華奢な肢体の上へ覆いかぶさり、なおも唇を貪る。
 美弥の腕が伸び、青年の首へと巻き付いた。


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