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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-12

「じゃ、行こうか」
「はい」
 何故か頬を赤く染めている佳奈子と竜彦は、連れ立って仕事に戻っていってしまった。
「……やるなぁ、兄さん」
「……そーいう事だったんだぁ〜」
 同時に声を上げた二人は、お互いを見遣る。
「どういう事?」
「ん?さっきお義姉さんが『彼に逃げる気は全然ない』って言ってたから、一体何の事かと思ってたんだけど……そっか、おめでただったんだぁ」
 感心する美弥を見つつ、龍之介はため息をついた。
「成る程ね……」
 
 
 夕刻前に式が終わると、龍之介は美弥をホテルに案内した。
 どこぞのご用を足すホテルではなく、洗練されたシティホテルである。
「ロイヤルスイートに一泊……と張り込むのは無理だったけど、ダブルの部屋を予約させて貰ったよ」
 せめて新婚初夜くらいは気兼ねしないで過ごしたいという新郎の願いを、新婦は笑って許した。
「では、失礼いたします。ごゆっくりおくつろぎ下さい」
 案内してきた従業員が部屋を出ると、龍之介はさっそく美弥に抱き着く。
「やだ、ちょっと……」
 苦笑いしながら腕を叩き、美弥は龍之介をたしなめた。
 だが龍之介は髪に顔を埋め、抱いた肢体を指で探っている。
「……どうしたの?」
 指を軽く握りつつ優しい口調で問うと、後ろからため息が聞こえた。
「……まだ、信じられないよ」
 理由が分かると、美弥はくすくす笑う。
「ごめんね。明日は、きちんと書くから」
「ん」
 明らかにホッとした声を聞き、美弥は龍之介の指を離す。
 花婿は後は花嫁が名前を書き込むだけで完了する婚姻届けを用意していたのだが、美弥は指が震えて名前を書き込めなかったのだ。
 明日こそ名前を書き込んで朝一番に提出し、早く籍を入れたい。
 二人揃って、そう考えている。
「とりあえずご飯……は食べたから、お茶でも飲んでゆっくりしたいなぁ〜……?」
 言って龍之介を見上げると、青年は仕方なさそうに肩をすくめた。
「ルームサービス取る?それとも、ラウンジ行こうか」
 
 
 ラウンジにてお茶と軽いお菓子を摂ってくつろぐと、二人は部屋に戻った。
 美弥としてはもう少しのんびりしたかったのだが、早く二人でまったりしたいとそわそわしつつ鼻息の荒い龍之介を見ては、自分の意見は引っ込めざるを得ない。
 龍之介の考える『まったり』の意味を詮索するのは、野暮である。
「ん……」
 部屋へ戻ってきた途端に背後から抱き着かれ、美弥は声を上げていた。
 
 はむっ
 
「ひゃっ」
 いきなり耳たぶを食まれた美弥は気持ちがいいよりも先に驚いて、妙な声を出してしまう。
「やぁだ、シャワーくらい……」
 体をくねらせて意志表示しつつ、美弥は声を上げた。
 こうなるとたしなめた所で聞く耳なんぞ持っちゃいないのは分かっているが、いちおう文句はつけておくべきだろう。
「そんなに浴びたい?」
 名残り惜しそうに舌先で耳のラインをたどりつつ、龍之介は言った。
「あ……びたいよぅ……」
 体が期待で小刻みに震えるのを感じながら、美弥は呟く。


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