明日になれば他人-1
十威(トーイ)は美しい男だ。
それもそのはず。
出張ホストを生業にしているから。
No.１のせいか予約しても３週間待ち。
それでもいい。
十威しか考えられない。
できることなら、自分を真っ白にリセットしたい。
でも無理だね。
人生は一度しかないように。
白い紙に鉛筆で一度書いてしまえば、消しゴムで消せても…書いた跡までは綺麗にならない。
汚れて傷が残る。
目に見えない。
だけど確かにわかる…。
私は樹里(ジュリ)。
東京に夢を見て来た。
だけど、もうすぐ３０になる今はもはや蜃気楼。
儚い憧れにのぼせただけ。
何のための１２年間だったんだろう？
それなりに大学を出て、就職して、恋愛もした。
最後の３年間は不倫で泥まみれになった。
もう潮時だ。
何もかも忙しない毎日にも東京にも自分にも疲れた。
男の言う愛なんてアテにならない。
田舎へ帰ろう。
見合いでもして平凡な幸せに納まって親孝行するのもいいかもしれない。
そんな時。
大学時代の友達と久々に飲みに行ったその場で、男バナに盛り上がった。
「会いたい時、淋しい時こそ気軽に付き合えるの。自分を変に繕う必要もないし疲れない。メールから友達を始めるのも有り。自分好みの男も選べて最高に素敵な気分になるから、一度試してみたら？リフレッシュも兼ねてさ」
お、男を、買…う…？
「その辺の箱型ホストよりリーズナブルだし、後腐れもない。寝たきゃ寝てもいいし」
専用のメールアドレスを教えてもらった。
やっぱり私、女なんだね。
最後くらいは華やかに夢を見たっていいじゃない？
躊躇しながらも、興味本位でアクセスしてみた。
画面に男性陣の画像が次々と賑やかにアップされた。
２０代から５０代に、甘々から美形・凡庸に至るまで、値段も様々。
出張ホストが提供するサービスはデート中心だけど、性感マッサージ・男性/女性/３ＰプレイなどのＯＫ表示もある。
ただし、ホスト本人と『要相談』だ。
(本当に本番あるんだ…)
思わず唾を飲み込んだ。
ふと手を止めた。
(あの…子…だ…)
意外。知っている人を見つけてしまった。
話したことはないけど…。
まさかね。
『初めまして、こんにちは。十威(to-y)、２３歳です。外見だけが僕の取り柄です。中身は貴方が設定してください。貴方が望むままの僕になりましょう』
つれないながらも女心をそっとくすぐる文章と、憂いを秘めた美しい画像が私にアピールしてくる。
「僕を買って」
１時間１万から、＋α料金。デート費用は自己負担。
No.１の割に安い方だ。
…決めた。
考えるより行動、メールフォームにクリックして予約してしまった。