ばあちゃん4-1
ばあちゃんが余命一年弱と言われてから二年が過ぎようとしていた頃。
忘れもしない私の中学の卒業式があった、三月十六日。
今まで慣れ親しんだ校舎や仲間達との別れを済ませた後誘われた、友達同士での卒業パーティーを断って、私は真っ直ぐに町の病院へと向かった。
ばあちゃんの容態がおもわしくなかったからだ。
病院に着き病室に入ると、中にはばあちゃんの子供達、父の兄弟等がベッドを囲んでいた。
「卒業おめでとう!」
私を見た父の姉が、にこやかにそう言った。
それに私は笑顔で答えた。
横で眠るばあちゃんは、もうだいぶ前から話すことも出来ずにいた。
そんなばあちゃんの横に立って卒業を報告する。
「ばあちゃん、私、卒業したよ」
耳元でそう言うと、うっすらとばあちゃんの目が開いた。
「ばあちゃん、…聞こえてる?」
目は虚ろで焦点も合っておらず、開いたと思われた直後にゆっくりと静かに閉じられた。
私はばあちゃんの皮と骨だけになってしまったような細い手をギュッと握った。
血管の細かったばあちゃんの手の甲は、いつも採血やらをうけていたせいでどす黒い赤紫色に染まっていた。
私は切に祈った。
まだ逝かないでくれ、と。
その夜の深夜。
三月十七日の午前三時頃。
いきなり私の携帯電話がけたたましく鳴り響いた。
ケ〇メ〇シのよ〇☆〇ぜの着メロ。
ピッ。
「…もしもし…?」
電話の相手は、病院に泊まっていた父からだった。
『もしもし?今すぐ病院に来てくれ』
父は一言そう告げると、早々に電話を切った。
ばあちゃんが危ないんだ。
本能的にそう思った。
すぐに母と兄を起こし、病院へと車を走らせた。
暗い夜道は、不安だらけの私の胸中をより一層暗くさせた。
息を切らして病室に駆け込むと、いつもの父の顔が目に入った。
父は、こちらを確認してにこりと笑った。
どうやら、ばあちゃんの容態は安定したらしかった。
しかし油断が出来ない状態は続いていた。
十七日は私の高校の合格発表の日。
私と母と兄は病院を離れ、三人で私の受験した高校へと車を走らせた。
結果は合格。
そこにたまたま居合わせた友達と、手を取り合って喜んだ。
車に戻って電話で父に合格を知らせる。
『合格したって?!そうか!良かった良かった!ばあちゃん聞いたか?合格したってよ!じゃあ気を付けて帰って来いよ!』
父はものすごく喜んでくれた。
…ばあちゃんも、私の合格を喜んでくれただろうか?
その日の夜、東京から姉が帰って来た。
ベッドに横たわり、息をするのもやっとのようなばあちゃんを見て、『ごめんね』と呟いていた。