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ばあちゃん
【ノンフィクション その他小説】

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ばあちゃん3-2

一年が過ぎた。
ばあちゃんはまだ健在だった。
余命一年も無いと言われていたのに、ばあちゃんはそれをものともせずに生きてみせた。
ただ、体は確実に衰弱していた。
固形物を噛む力がなくなり液体に近いような食事になり、ベッドからは降りることも出来ず、排泄も尿道に管が通された。
姉がいなくなってから、ばあちゃんの介護は母が全てを受け持ち、疲労しながらも丁寧にばあちゃんの介護を続けていた。
そんな母を見ていても、私は何も出来ずにただ様子を眺めているだけ。
私だってばあちゃんに何か出来ることがある筈だ、そう思ってみても、今まで介護などとは無縁で、考えもしなかった私が実際出来ることなどある筈もなかった。
唯一あるとすれば、ベッドから降りられないばあちゃんの話し相手になること位。
私の自己満足かもしれないが、これが私が今ばあちゃんにしてやれることなんだ、と一丁前に思っていた。

いつものように私がばあちゃんのベッドの隣にある椅子に腰掛け、ばあちゃんの目線に合うように腰を曲げて話しかける。
「ばあちゃん、今日は具合良い?」
私が話しかけると、ばあちゃんはにっこりと笑いながら頷いた。
話し相手と言っても、いつも私が一方的にベラベラと喋るだけで、ばあちゃんはそれをにこにこしながら聞いてくれた。
その日、それがふと疑問に思った私は、ばあちゃんにその疑問を投げ掛けてみた。
「ばあちゃん、ばあちゃんはいっつも私の話にこにこしながら聞いてるけど、私の話面白い?うるさくない?」
するとばあちゃんは、
「貴方がね、いつもにこにこと幸せそうに話すから、こっちも幸せな気分になって、ついつい笑ってしまうんだよ」
と、いつも通りにこにこしながらそう答えた。
私は、そう言われて初めて自分にだって出来ることがあったんだ、と思えた。
何だか不思議な気持ちだった。
自分にも出来ることがあるのだと思えた瞬間泣きそうになった。
何かが満たされたのか、どこかが緩んだのか今でも定かではないが。

しかしその気持ちも、長持ちすることはなかった。


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