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ばあちゃん
【ノンフィクション その他小説】

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ばあちゃん1-2

まだ肌を刺すような寒さが続くある日。
母はいつものようにひんやりとした廊下を歩いて居間にやってきた。
朝食の用意をする前に、これから起きてくる私達が寒くないように居間を暖めておくのは、母の日課だった。
私の家族は自分を含めて六人いて、その日は朝から仕事に出掛ける父、部活の遠征の為に留守にしている兄、そして姉を抜かし、家には春休み真っ最中の私と母とばあちゃんしかいなかった。
「さぁむぅ〜い…」
腕をさすりながら、母は居間に入った。
ピッ。
ストーブに火を付ける。
ブゥンと音を立て、ストーブは自らの意思で熱を吹き出す。
次はこたつ。
足早にこたつのコンセントへと駆け寄る。
がっ。
「えぇ…?」
何かにつまづいた。
微かに暖かい何かに。
「何…」
母は暗い室内に目を凝らした。
「…!お義母さん!」
母がつまづいたのはばあちゃんの足だった。
ばあちゃんは、凍るような寒さの中下着だけを身に付け、こたつでうずくまり震えていた。
「お義母さん?!お義母さん!!」
ばあちゃんはどんなに揺さぶっても、どんなに大きな声で呼んでもただ震えるだけで何の返答もない。
「きゅっ、救急車!」


私は、うち独特の電話のコール音で目を覚ました。
いつもなら母がすぐに出る筈なのに、今日はいつになってもコール音が鳴り止まない。
息が白くなる程の寒さを堪え、私は足早に暖かいであろう居間まで向かった。
「はい、もしもし」
電話の相手は母。
「お母さん?どしたのこんな朝っぱらから、どこに…」

手が震えた。
母が電話を切ってもなお、私は震える手で受話器を握り締め続けた。
やっと受話器を離せたのは、父のルシーダが鳴らす独特のクラクションが聞こえたときだ。
どうやら、私は小一時間ほどそのままの格好で動かなかったようだ。
いきなりの警告音に私は慌てて受話器を置き、ほぼ寝起きの姿のまま車の中で待つ父の元へと向かった。
「すぐ行くぞ」
私が車にたどり着いた途端、父が窓を開け一言告げた。
「行く…って…」
「勿論、病院だ」
いつもと違って父の顔が険しかった。
ふと隣を見ると、助手席には今日帰って来る予定だった兄がすでに座っていた。
先生が話をしていた所を途中で抜けて駆け付けたらしい。
私達は、ろくに会話することもなく重々しい雰囲気の中、ばあちゃんと母の待つ病院へと車を走らせたのだった。


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