全てを超越『4』-2
「美味しかったかしら?」
「うん、まぁ、な」
結局、味噌汁を三杯おかわりした。
いつも飲み慣れてるおふくろの味とは違ったが、確かに美味かった。
「そう。心を込めた甲斐があったわ」
「……隠し味は愛、とか言い出すなよ」
お決まりだし、こいつなら素面で言いかねん。
「あなたへの愛は隠し様がないわ」
真顔で、いつも通りにこいつは言い切った。朝霧の言葉バズーカは、相変わらずの威力を誇ってやがる。
もう、どんなリアクションとったら良いかわかりません!!
「あ、あー。でだ、何故にお前はここにいるんだ?」
「…………」
無表情な朝霧が、こっちをじっと見る。
「あの、朝霧さん?」
「……鈴、と呼んでくれたら、教えてあげるわ」
………こいつはまた、とんだ交換条件だな。
しかし呼ばん!
呼んだら、何かこれ以上に朝霧の行動がエスカレートしそう。
「じゃあ、別に教えてくれなくても良いや」
「そう。じゃあ、朝ご飯の調理費を請求するわ。私はあなたの侍従ではないもの」
が、ガメツいですね。朝霧さん。
ま、まぁ……確かにそうだな。
知らんうちに作っていた部分はこの際置いといて、礼ぐらいはしないとな。
「ふぅ。……わかった。いくらだ?金取ってくるから」
「では報酬として、私を名前で呼んでくれる事を要求するわ」
立ち上がった俺を、鋭い視線で見ながら、朝霧は言った。
「こ、こだわるねぇ」
「えぇ。あなたとまずは友達以上になるのが、私の目標。その目標を達成するためには、名前で呼んでもらうのは必要不可欠な事項だもの」
……確かに。友達だったら、名前で呼んでも良い……のか?
色々と不安が頭をよぎる。
が、それを知ってか知らずか、相変わらず朝霧は鋭い視線で俺を射抜く。その視線の発信点。瞳の奥に、不安そうな光を見つける。
ふぅ。やっぱり朝霧には甘いね、俺。
「わぁった。わぁったよ。呼んでやるよ、名前で」
そう言うと、朝霧はまたちょびっとばかり嬉しそうな表情になった。
相変わらず、わからねー。なんでこんな美人が、俺に惚れたんだか。
まぁ、ちょっと以上に変人だけどな。
「…………鈴。……これで良いのか?」
何故か湧き上がる羞恥心に、思わず顔を背けながら言った。
横目で見ると…………。
はっ、いかんいかん。見とれてしまった。
視線の先に、本当に嬉しそうに微笑する朝霧が、いや鈴がいた。あんなもん見せられたら、男なら誰だってヤバい。
一撃必殺の威力があったぞ。
ヒートエンドされて、爆発する所だったぜ。
「嬉しいわ。……それじゃあ、私も一太郎と呼ぶわね」
……へ?
「友達なら、対等な関係を維持しないと。私だけ名前で呼んでもらうのは不公平だもの」
ふ、普通は逆じゃねぇ?
いや、もう無理だな。なに言ったって、もうこいつは何が何でも俺を名前で呼ぶ。
「でだ、鈴」
「何かしら、一太郎?」
う、何でそんな嬉しそうに応対するですか、あんた。そんなに俺の名前を呼べるのがうれしいんスか?
「……何で、お前がここにいるのかと、おふくろはどこに行ったのかを聞きたいんだが……」
「そうね。まだ言ってなかったわね。朝、お母様からメールが来たの」
「メール?」
ふぅーん。
つーか、いつの間にメルアド交換してんだよ。抜け目ないというか、何というか。