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全てを超越
【コメディ 恋愛小説】

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全てを超越『4』-3

「急用ができたとかで、10時頃にお出かけになったわ」
「それであのバカ親は、知り合って3日も経っとらん息子の友達を呼び出したって訳か。なに考えてんだ!?」
「親に向かってバカなんて、言ってはだめよ」
「良いんだよ。悪いな、本当に。急用だと言って、どうせ知り合いとバーゲンかちょっと高い昼飯目当てだろうよ」
急用だと言って、俺を置き去りにした前科あるしな。
「良いのよ。報酬が魅力的だったもの」
報酬……魅力的……。
まさか……また俺のプライバシーじゃないだろうな。
あり得る。ムチャクチャあり得る。あのおふくろなら、平気で俺のプライバシーを暴露する。息子の俺を近所のおばちゃんに『愚息』呼ばわりしてる、あの『愚親』ならしかねない。
「鈴、その報酬ってのは……」
「それについては黙秘するわ」
すんな!!
ちくしょー。聞き出そうとしたって、絶対言わないだろうしなぁ。何でこう、俺って女運が悪いんだ?
神様、俺って前世に何したんですか?
弄んだのか!?
ふぅ……。
「ま、次からは無視しても良いからな。バスとかで来たんだろうし、金もかかるだろ」
「……そうね。川島さんもいるし」
……何だって春子が出てくるんだ?
微妙に鈴の表情にも落胆の色が見える。そんなに来たいのかよ?
いや、しかし。
「あいつはダメだ。あいつに作らせるぐらいなら、自分で作る」
「何故?」
「あいつぁ、料理できねー上にふざけるからな。一度、原材料が『たわし』のコロッケを俺に出した事がある」
昼ドラじゃあるまいし。
「昔、あいつん家とウチの家族でキャンプに行った時なんて、飯ごう炊さんの米を危うく洗剤で洗おうとした事もある」
間一髪で止めたが……。あのままほっといたら、全員食中毒起こして病院送りだった。
「……壮絶ね」
「まぁな。リンゴ剥かしたら、皮の方がまだ美味そうだったしな。あいつの料理下手は筋金入りだ」
本当にあいつに作らせるぐらいなら、自分で作る。俺も料理はできんが、あいつよりはまだマシだ。焼きそば作れるしな、俺。
「そう、そうなの」
あれ、ちょっと嬉しそうですよ、この子。何が嬉しかったんだ。
「……方が、有利……」
へ、何だって?
小さかったから聞こえなかった。
有利……?
何がだろう……まぁいいか。
「だから、おふくろが馬鹿な頼み事しても、別に無視してかまわねーからな」
むしろ無視してくれ。朝、起きたら鈴がいるのは、心臓に悪いから。
……ちょっと嬉しいけどな。ほんのちょっとだけ。
しかし、やはりこいつは俺の目論見を打破してくる。
「良いのよ。夫に美味しいものを食べさせるのは、妻の務めだもの」
「いや、結婚どころか付き合ってもいねぇし」
すっげぇ飛んだよ、未来に。夫に妻って……。
こいつ、結構妄想激しいな。
「これからそうなる可能性はあるでしょう?」
まぁ、あるといや、ある……かなぁ。
「それに、好きな人に美味しいって言ってもらえる事って、とても幸せな事だもの。私はあなたの事を、この世の中全てのものよりも愛してるわ。だから、私の料理を食べて欲しいの。美味しいって、言って欲しいの」
……。
相変わらずの真顔の爆弾発言に、俺は言葉を無くすしかなかった。


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