恋する日々〜消えぬライラックと生い茂るノコギリソウ〜前編-1
『その…えぇっと…つまり俺…佐藤の事が好きなんだ!!』
…遂に言った。言った!俺の想いを!
昨日いきなり担任の先生から佐藤が転校してしまうと聞かされた。これを逃したらもう佐藤とは会えない、そう思ったから俺は佐藤を校舎裏に呼び出し告白をした。心臓がバクバクしてる。多分顔はすごく赤いだろう。凄く恥ずかしいから当たり前なんだが。でも、伝えたかった。俺の想いを。でも…
『…っく、えっく、ご、ごめんなさい!』
佐藤はそう言い泣いて走っていった。OKされるなんて思ってもいなかった。けれども…泣かれるとも思わなかった。傷つけてしまった。クラスの皆とお別れ会をしていた時も泣かなかった佐藤を泣かせてしまった。佐藤はきっと本当は心がボロボロなはずだ。それなのに今の佐藤の心境も考えもせずに俺の自分勝手な行動のせいで…
『………最低、だな。俺』
俺はそう呟きその場を動けず静かに泣いた。
それが5年前の出来事。あんな事があったにも関わらず普通に接する佐藤の気持ちがわからないでいた。
「へぇ、じゃあ佐藤は誠と香織とは小学校が一緒だったのか」
「うん。5年生の時に親の都合で転校しちゃってね」
「そうか、5年ぶりだね」
唯一の救いは今が昼休みで他の皆と話をしている事だ。間に信太と藤野がいるおかげで話が途切れずに続いてる。二人が気をつかっている…というのはないだろうが今はありがたい、今のうちに心を落ち着かせねば…
「それにしても、なんでテストの後に体育祭やるんだろ?普通逆だと思うけど?」
「そういえばそうですね。なんででしょう?」
「あぁ、そりゃ師範の独断でそうなったんだ。頭を使った苦行の後は漢らしく体を動かしてウサを晴らせ!ってさ」
真似をしながら誠が由佳里の疑問に答える。
「師範?」
「学園長のこと。見かけがあんなだし、ここの武術部の師範だから」
学園長柴山源一郎は見た目どうり武術に長けており、戦争を起こすなら核を持つより彼を仲間にしたほうが勝つとも言われている。そんな事を言われているために学園では彼に逆らう者はいなく、畏敬の意を込めて武術部でなくとも師範と呼ぶようになった。
「へぇ〜変わってるね、この学園」
変わってると言いつつも由佳里は笑っていた。これからの退屈はしないであろう学園生活が楽しみで仕方ないのだろう。
「さて、ぼちぼちいい時間だし教室行こうぜぃ」
信太がそう言うとトレーを片付け教室に戻ろうとした。
「おや、そこにいるのは参組の方々じゃないか」
その時ふいに後ろから声をかけてくる者がいた。誠はうげぇ、と声を漏らしながら実に嫌そうに声の主の方へと振り返った。
「やはりいつもの神那一行か、相変わらず仲のよろしいことで」
そこには誠と同じ制服を着た学生とその取り巻きがいた。
「なんだよ、なんか用か?」
誠は心底嫌そうに答える。
「あの人は?なんか神那君があそこまで嫌そうにしてるのって珍しいけど?」
知り合いの見覚えのない態度を見て思わず由佳里は香織に聞く。
「あいつは壱組の新崎、理由は知らないけどなにかにつけて私達のクラスを敵視してるんだ」
「おや?そこにいるのは噂の転校生かな?君も災難だね参組なんかに転入するハメになってしまって」
新崎はわざとらしく肩をすくめやれやれといったポーズをとる。
「あぁ?どういう意味だ新崎」
信太は少し喧嘩腰で身を乗り出しながら新崎の前に出る。
「どういう意味と聞かれてもその通りの意味さ。馬鹿揃いで騒がしい参組に転入して可哀相だと言ったのさ。」
「んだとてめぇ!」
「よせよ信太」
新崎を殴りかかろうとした信太を誠が止める。