愛しい人。-4
「何か…心配事ですか?」
山崎くんは自分のコップに日本酒をつぎながら、そう尋ねた。
「心配事っていうか…、私ってさ、結構完璧主義なの。」
コップを揺らすと、中の液体もゆらゆらと揺れる。
「そうですね。」
「女だからって理由で馬鹿にされたくないの。」
ゆらゆら揺れるお酒が綺麗だな、なんて場違いな事を思った。
「うん」
律儀にもきちんと相槌をうつ山崎くんに、感謝しつつ、話を続ける。
「だから今まで必死で頑張ってきた。」
「うん」
「でね、やっと今までの頑張りが認められたの。」
「うん」
「それなりに仕事も上手くいってて、恋愛にだって満足してた。」
「うん」
「でも…やっぱり若さには勝てない…。」
私はだんだん眠くなって、自分でも瞼が下がっていくのがわかった。
「…」
山崎くんの相槌が止まったのに気付いたけれど、もう私の話は止まらない。
もう、駄目だった。
誰かにこの気持ちをぶつけたかった。
「可愛い子がさ、いつも一緒にいたらさ、やっぱりコロっていっちゃうよね。」
要と神田さんへの不安を。
それが、私と要との関係をバラすきっかけになろうが。
もうどうでもよかった。
「…」
「そんな関係じゃないかもしれないけど…やっぱりどこか心配でさぁ。疑っちゃうんだよね…」
「…」
「いくらあたしの方がキャリアあっても、長く付き合ってきても、やっぱり…不安だよ…」
好きって気持ちだけでは恋は続かないってことも理解している。
「先輩…」
「…か…なめ…」
でも好きなんだもん。別れたくないんだもん。
「…!!」
言いたい事を全部言った私は、襲ってきた睡魔に勝てず眠ってしまった。
「…先輩の彼氏って…副社長だったんだ…」
山崎くんの声が遠くに聞こえたけれど、朦朧とした意識のなかでは、彼が何をいったかなんて認識できるはずもなかった。
―…
「…んぱい、先輩ってば!!」
「ん〜…」
「ほら、家、着きましたよ。」
「んぇ?」
目が覚めると、(山崎くんに起こされると、の方がいいか…)私のマンションの前だった。
「…あれ…?」
「も-、先輩あれから爆睡ですよ?仕方ないからタクシー呼びました。」
「…あぁ。すいません、迷惑かけました」
ペコッと頭を下げたら、くらっときた。
「あぁッ稲守先輩…しっかりしてください!!」
山崎くんが腕を掴んでくれなかったら、あやうく道路へダイブする所だった。
「ごめん…ありがと」
「部屋まで連れていきましょうか?」
「ううん、平気。…じゃあね。」
山崎くんにタクシー代を押し付けて、階段で部屋までなんとか行った。
「ッきもッ…」
鍵を開けると同時に部屋の中に倒れ込む。
急いでパンプスを脱ぎ捨てて、冷蔵庫で冷やしておいたお茶を流し込んだ。
「…ッぷはぁ」
スーツを脱いで、下着姿でベッドに滑り込む。ハンガーにかけないとシワになるなぁなんて、回らない頭の隅で思った。
まぁ…起きたら朝だったのだけど。
目覚めて一番最初にめに入ったのは、脱ぎ散らかしたスーツだった。