記憶のきみ―目の前のきみ-2
「………あ」
『………はは』
悦乃は顔を真っ赤にして逃げようとした。
『待てよ』
しかし、瞬は悦乃の腕をつかんで離さない。
「………」
悦乃はどうしたらいいかわからないといった顔をしている。
『………俺は』
「………え?」
『ずっと言いたかった。けど、昔のことを思い出さないとだめだって』
「………」
『でも、やっとお前のことを思い出せた』
「……うん」
『好きだ、悦乃』
「………」
『………なんか言えよ』
「………」
『………おいで』
瞬は悦乃の腕を引いて、優しく胸に抱き寄せた。
『マジでちっちぇーな、お前』
「………夢みたい」
『……あ?』
「……こんな日がくるなんて……神様……」
『……はは、よしよし』
胸の中で泣き出す悦乃をあやしながら瞬は悦乃の温もりを噛み締めた。
俺はずっと悦乃を抱きしめたかったんだ。
『これだけでいいのか?』
「うん、あ、これもバッグに入れて」
『……ん』
翌日、瞬は悦乃の退院準備を手伝っていた。
「よし、じゃあお母さん、荷物と手続きお願いね」
「はいはい、気をつけてね」
「うん!」
悦乃は元気よく駆け出した。
『おい!また発作起きるぞ』
瞬は歩いてその後を追う。
「あ…瞬くん」
『………はい?』
悦乃の母が瞬を引き止めた。
「あんな子だけど……本当にお願いしますね」
なんだか申し訳なさそうに言う。
『………自分は悦乃以外、考えられないですから』
「そう言ってもらえるとうれしいわ」
『………じゃあ、行きます』
お母さんの笑顔は、やはり悦乃にそっくりで、照れくさくなった。
「なにやってたの?遅いよー!」
『悪い』
二人で仲良く手をつなぎ、病院を出た。
「ね、今からどこ行くの?」
『………さあ』
「えー」
数年の時を経て、俺達は一緒になれた。
悦乃は、俺が幸せにする。
そう決意した昼下がりだった。