ある淫魔のライフスタイル〜堕ちた女魔族ヴァネッサ〜-1
日曜の朝、ジェイドは喫茶店で窓際の席に座っていた、テーブルには甘党の彼らしく生クリームのたっぷり乗ったココアが置かれている。ジェイド一口ココアを飲むと窓の外に視線を向けた。
(ミーティさん、まだかな……?)
今日はデートに行く約束だ。が、約束の時間を過ぎてもミーティはまだ姿を現さない。もっとも遅れてくるのはいつものことなのでジェイドはすでに慣れているのだが。
カラン♪
鐘の音と共に店のドアが開いた。入ってきたのは黒髪の美しい女だった。場違いな美人の登場に店内の男たちの視線が集中する。
ジェイドもまた女に注目していた。しかしその理由は他の男たちとはまったく違う。
(あの女……)
ジェイドが女から感じ取った気配。それは自分と同族――魔族の気配だった。女の目も真っ直ぐにジェイドを捉えている。
(どうやら向こうも気付いているみたいだな……)
女は開いている席には目もくれず、真っ直ぐにジェイドの席へと向かってきた。
「ご一緒しても良いかしら。」
「……どうぞ。」
女はジェイドの向かいに座るとやってきたウェイトレスに紅茶を注文した。
「まずは自己紹介しておくわ。ヴァネッサよ。よろしくね。」
「……ジェイドです。」
お互い短い自己紹介を終えると同時に紅茶が運ばれてきた。ヴ
ァネッサは何も入れず、ストレートで紅茶を口にする。
「……で、一体何の用ですか?」
いつも穏やかな表情を崩さないジェイドだが、今はさすがに相手を威圧するような鋭い視線を向けている。しかしヴァネッサはそれを難なく受け流し、微笑さえ浮かべていた。
「ただの挨拶よ。こんな街中で同族を見かけるなんて珍しいから。」
ジェイドの問に答えるとヴァネッサはもう一口紅茶を口にした。
「……街には何をしに来たんです?」
魔族が街に下りてくる目的などほとんど決まっているが、それでも聞いておく必要があった。
「もちろん獲物を求めてよ。他に目的あると思う?」
予想通りの返答にジェイドの雰囲気が変わった。明らかな敵意をヴァネッサに叩き付ける。
「この街の人たちに手を出さないでもらいたいですね……」
ヴァネッサの顔からも笑みが消え、ジェイドを睨み付ける。