微笑みは月達を蝕みながら―第弐章―-7
歩いて十分のところに車が停めてあった。こんな真夜中だし、長居するつもりがないなら近くに駐車すればいいのに、正樹は律儀にも駐車禁止のところには停めたりはしない。
「――あ、あのね」
白は先ほどから顔が曇っていた。これは何故なのか、女性経験が少ない夕にはわからない。
「聞いてもいいかな?」
何を聞きたいというのか、夕にはわからない。先程の事だろうか。
「あのね、レンさんと話してて、何もなかった?」
「え?――ああ、ない、けど」
「……そっか。なら良かった」
少しだけ安心したのか、笑顔を見せてくれた。こうして見ていると夕と同い年と言われても全然違和感がない。寧ろその方が違和感がない。
「あのね、夕くん――」
「ん?」
「今日は、ありがとう。久しぶりに、他の人と話せて……触れ合えて、嬉しかった」
「…俺のほうこそ」
「私には、過ぎた幸せだけど」
「――――」
なんだか自分が情けない男のような気がした。自分勝手なような気がする。せめて何か、彼女に渡せるものは、ないだろうか。
「あのさ、これ」
「夕、行くぞ」
無情にも正樹は夕を呼ぶ。だけど何とか、手渡せた。
「じゃあね、夕くん」
車が発車した。排気ガスが白く舞う。白の姿が小さくなり、やがて見えなくなった。
何故か、間違ってるかもしれないと感じた。
それは先程見た夢の所為なのかもしれない。