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微笑みは月達を蝕みながら
【ファンタジー 官能小説】

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微笑みは月達を蝕みながら―第弐章―-6

「値段が高そうだな」
 ボソッと正樹が呟く。その感想もどうかと思う。
「一つ貰おう」
 そう言ってチョコレートアイスを一つ取り出した。ピシッとスーツで決めた大の男がカップアイスを木のスプーンで立ち食いしてる図をおかしいと思うのは偏見だろうか。
「あ、夕君。ストラップいる?」
 返事も聞かずにドジえもんのキャラクターストラップを夕に渡した。キャラがお金持ちのマザコンキャラという、夕としてはかなり微妙なストラップである。
「あ、あーざぁす」
 かなり略した感謝の言葉を述べ、一応ポケットにしまう。かなり間違った量のアイスの中からミルクキャンデーを貰うと封を開けて食べた。だが正直、この時期はかなり寒い。
「これ食べたら帰るぞ」
 食べながら帰るという発想はないらしい。真面目な正樹らしかった。どうでもいいけれど座ったらどうなんだろう。
「大体これ何ですか?」
 白がストラップをつまみながらレンに聞いている。レンは驚いているようだった。
「知らないの? ドジえもん」
「知りません」
「あらまあ、もう少し世間のことを勉強しないといけないわね」
「いいですよ、そんなの」
 白がしまった地雷踏んでしまったみたいな顔をしているが、レンは話を進める。
「ドジえもんとはね、なんとびっくり大人気のアニメキャラクターなの」
 なにがなんとびっくりなんだろう。
「未来の国からやってきた、青い猫型ロボットなのよ」
「…SFですか?」
「一応そうなるのかしら? ドジえもんはね、未来の道具を使って主人公であるのん太くんを堕落させるためにやってきたの」
「……何故です?」
「のん太くんは勉強は一番、スポーツ万能、おまけにルックス最高でとても才能に満ち溢れているのだけど、おかげで子孫は比較させられて肩身の狭い思いをしちゃうのよ。『先祖がしっかりしすぎるからこうなるんだ!』と怒った子孫は堕落させるためにドジでどうしようもないと有名なドジえもんを派遣するの」
「…ひどい設定」
「のん太くんは人格者だから、そんなドジえもんとでも仲良くしていくのね。堕落させるための未来道具はいっつも失敗して、のん太くんは逆に成長するというのがいつものパターン」
 夕も正樹も口を挟んだりはしなかった。我ながら賢い選択だと思う。大の女が子供向けアニメキャラを解説する図をおかしいと思うのは偏見だろうか。偏見だろうなあ。少し自分の器の狭さにがっかりした。
「結構好きなのよね、夢があって」
「夢はもういいだろう」
 正樹が無感情に割って入った。レンが長広舌を振るっている間にアイスは食べ終わったらしい。
「帰るぞ、夕」
 有無を言わさぬ口調だった。実は夕、さりげなく正樹の事が苦手だ。
「白、二人を送って差し上げて」
 レンは白が買ってきたものの検分をしていはじめた。こちらには見向きもしない。
「じゃあ、……迷惑かけて、すみません」
 頭を下げる。二人とも微笑って済ませてくれた。
 なんだか、無性に情けなかった。


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