微笑みは月達を蝕みながら―第弐章―-5
「え、あ、え? マサ兄?」
「迎えに来た」
夕は混乱する。何故ここに正樹がいるのだろう?
「…………」
正樹は答えない。口数が少ないのはいつものことだが、それより何故正樹がここにいるのかと頭の中で同じ疑問が繰り返されている。
「ねぇ、夕君。正樹さんとはどういう関係?」
「え、あ、えーと」
「親戚、だ」
レンの質問に何か答える前に正樹が答えた。大体合っているが、いつもよりさらに三割増で愛想が悪いのが気になる。
「…何でマサ兄がここにいんの?」
ようやく疑問が口に出てくれた。しばらく躊躇っていたが、ようやく口を開く。
「仕事の関係、だ」
「…………」
「………」
「……」
「…」
「あ、もう少し詳しく」
「夕君は知らないの? 正樹さんのお仕事」
レンが割って入ってくる。無感情な正樹の顔が、ほんの少し憮然の色を宿した。
「正樹さんはね……えっとね、退魔師の家系なの」
「……タイムマシン?」
残念ながら夕のボケには誰も突っ込んでくれなかった。正樹は愛想が悪いしレンはかなり天然っぽいし、白は――黙っている。あれ、そういえばあの白猫がいない。
「退魔師。ボランティアなんだけど、今でもしているの。それでね、私と人間達との架け橋になってくれたりしているのね」
「要は女王様のお目付け役、だ」
「……」
何か、どこかにレンに対する悪意があるのが気になる。夕もそれほど知らないが、正樹はこんなことを言ったりはしないはずだ。
レンは正樹の悪意に気付いていないのか頓着していないのか、一切を無視した。
「夕君も、退魔の才能があるのかもね」
「……い、いや」
そんなこと言われても。
「いや、全くない」
「…………」
そんなこと言われても。
「あ、アイス食べます?」
先ほどから黙っていた白が口を開いた。そういえば何やらかなりの荷物を持っている。
「ああ、何買ってきたの」
半ば逃げるように白に話を振った。だが、白は渋い表情。
「あ、そうそう。買ってきてくれた?」
「………一応は。でも何に使うんですかこんなもの?」
呆れ声で両手に抱えた袋から白が取り出してきたものは、
「なんだこりゃあ?」
夕も思わず素っ頓狂な声を出してしまう。ラインナップも珍妙というかなんというか、何より量がなんかヘンなことになっていた。
「あ、ちゃんと全部買ってきてくれたわね。少し足りないけども」
いい子いい子と白の頭を撫でているレンの顔は褒めているようだが、それよりも疑問に答えてもらいたいですと白は思いっきり突き放した声で言っている。そりゃあ恥ずかしいというか不審がられるだろうこのラインナップは。
〜以下買い物リスト〜
ホチキス本体×六。
ホチキスの芯三個セット×八。
ロウソク十本セット×十三。
携帯ストラップ(ドジえもんシリーズ)同じもの四つずつ。
羊羹蜂蜜梅干マーガリン牛乳各一ヶずつ。
各種サプリメント三つずつ。
アイスクリーム十数種類(おそらく店舗に置いてある全種類)×二。
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夕が店員なら間違えなく不気味に思うだろうと思われた。もしくは後でネタにするか、いずれにしても下手したら都市伝説の類になりそうだ。…ホチキスとロウソクの大量さ加減がちょっと怖い。