僕とお姉様〜嘘をつく〜-2
日曜日。
珍しく僕より早く起きたお姉様は、僕の学習机をドレッサー代わりにせっせと化粧をしている。普段はジャージやらトレーナーでうろうろしてるクセに今日はやけに服装に気合いを入れている。
無言でその様子を見つめる僕に気付くと、
「山田も早くしてよ!お昼までに行かなきゃいけないんだから!!」
と、起きたばかりで上手く思考の働かない僕をまくし立てどこに何をしに行くかすら分からないまま、準備をしたらすぐに車に押し込められた。
「前に話した通りにお願いね」
「…前?」
完璧上の空だったあの時の事だろうな。今更全く聞いてなかったとは言えない。
「とにかく、適当に話を合わせてくれればいいから」
「…はい」
何だろう、激しく嫌な予感がする。
あの話の流れ方からして、今から向かう場所は恐らく…
「もう着くよ」
車で走ること1時間弱。山を無理やり切り開いたような集落に民家がぽつぽつと建っている、絵に描いたような田舎。その中の一軒の家の前で車は停まった。
「実家ですか?」
「そうだよ」
嫌な予感的中。
まさか本気で着いて来いと言っていたとは…
昔ながらの農家の造りと言えばいいのかな。築年数のいってそうな平屋と大きな物置。軒下に吊された玉ねぎや縁側で干されて縮まってる切り干し大根。何でこんなのどかな場所からこんな突拍子のない人が育っちゃったんだろうか…
お姉様は何やら小さく気合いを入れて玄関に足を踏み入れた。
「ただいまー」
その声に吸い寄せられるように中からバタバタと足音が近づいてくる。
「朝子!」
奥から現れた割烹着姿のおばさんは僕を見て頭を下げた。
「朝子の母です。いつも朝子がお世話になってます」
当然こちらも自己紹介しようとする一瞬早く、お姉様の口が動いた。
「この人が今付き合ってる山田強君」
「っ!?」
自分の首がもげそうなほどの勢いで横の嘘つきを見た。
付き合ってるだと!?
「どうぞ、中に入って下さい」
言われるがままお母さんとお姉様の後についた。
訳分からん…。
通された客間には既に先客がいた。これは間違いなくお父さんだ。うちのヘラヘラしたのんき親父とは違って、明らかに僕ら二人を睨んでいる。
机を挟んで向かい合わせに座り、僕を無視した自己紹介から会話が始まった。
「お父さん、この人が彼氏の山田強君」
顔色を変えることなくひょうひょうと嘘を付く。
だから何なんだよ、彼氏って!!
「随分若い彼氏だな」
ここでもお姉様は僕に何も言わせない。
「彼若く見えるけど今年24歳なの」
おいっ!!
まだ18歳だ!高校生だ!!誰が24歳だっ!!!!
「お前より3つも年下なのか」
…24歳より3つ年下?
て事は、この人の年は27歳。僕より9つも年上…。
何だか、遠い。
「山田君は仕事は何を?」
「え、あの」
「自動車部品の製造ラインで働いてるの」
どもる僕をお姉様は準備していたかのようにすかさずフォローする。
「山田君に聞いているんだ」
「あたしが答えたって同じでしょ」
「いいからお前は黙ってろ。お父さんは山田君と話がしたいんだ」
「何で?」
「娘の彼氏と話して何が悪い」
お互い喧嘩腰になってきてる。さっきから一言も話さない僕をお父さんは怪しんでるし、それに気付いたお姉様は少々苛立ってる。