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『しま模様と紙ひこーき』
【青春 恋愛小説】

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『しま模様と紙ひこーき』-8

あのヒコーキはどこまで行くんだろう。
そんなことを考えていると、春香が二つの赤く光るヒコーキに目を細めた。
「私、毎回転校するときこうやってノートを切り取ってヒコーキを折ってるんです」
「もったいないよね」
私は言いながら、いくつかのヒコーキと共に机の上に置いてあるノートを手に持つ。
「ノートはそこで過ごした日常が詰まっているから…だから、転校するときにはヒコーキを飛ばして、嫌な思い出も飛んでいってくれると信じて…。そうすると何故かスッキリできたんです」
私は春香に「はぁ〜」とあからさまに、聞こえるぐらい大きな溜息をついてやる。
そんなことだろうと思った。というかくだらない。私は、はい、とノートを春香に渡す。春香はそれをじっと見つめるだけで、持とうとはしなかった。ああ、わかってないな。
「なんだ、春香って紙ヒコーキのことわかってるようで、全然わかってないんだね」
「む、私と紙ヒコーキで言い合おうとでも?」
だって、いちばん肝心なことをまだ気付いてない。
「紙ヒコーキは悪い思い出を飛ばすだけじゃなくて、良い思い出も運んで来てくれるって私は思うけど?」
だって、私はこんなにも大切な出会いをくれたんだもん。
「……っ」
私の言葉になにを感じたのか、春香は俯いてしまった。
「それと、あんたの気持ちはちゃんと伝わっているから。ただ、みんなもどうしたらいいか不安なだけ。だからそんなときは春香が、紙ヒコーキを飛ばしてあげて?想いというヒコーキに言葉を乗せて、さ」
「…はい…はい」
何度もはいと呟く春香。顔を上げたその瞳にはやっぱり涙が溢れていて。でもこの涙はあったかいんだろうと思った。
私が私のヒコーキに乗せた願い。
『かけがえのない居場所にあなたを導いてくれますように』


そうして次の日、春香は言葉通り転校していった。
私はやっぱり気になり、昼休み春香のクラスの元担任に話しを聞いたところ、
「ほんと、よかったわよ。私が教師になって初めて感動したわ。若いっていいわね」
と、その日の朝開かれたお別れ会では、春香のクラスの女子が春香を囲んで連絡先を聞いたり、ぬいぐるみのプレゼントとをあげていたとか、泣いたとか。
ただ、当の本人はおろおろと困惑していたらしい。春香らしいなと吹き出してしまった。
ちなみに、私からもプレゼントがあったのだった。
「気付いてるかわかんないけど」
私からのプレゼントは、あのノートに書かれている。
昨日、春香は私の台詞に感動したらしく再び泣き出した。が、今度ばかりは最終の見回りにきた先生に見つかってしまい、私たちを見付けたときしばし訝しげな顔をしていた。変な勘違いをしていなければいいけど…。そして、そのまま説教をされたとき隙をみてこっそりと書いていたのだ。
気付くのは明日か明後日か。もしかしたら何ヶ月も後かもしれない。ああ見えて抜けてるふしがあるからなあの子。
それを見付けた彼女はどんな顔で笑うのか。
昼下がりの午後。頬を緩ませ、廊下を歩いていると、ふと、窓の外で何かが私を横切った気がした。
私は窓を開け、空をあおぎ見た。
今日も青空だった。


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