刃に心《第16話・肝試し度胸試し》-5
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月は雲で陰り、吹く風は先程よりも強さを増している。
得体の知れないものの息遣いや視線を受けているような気がする。
「うふふ…」
「んふふ…」
まあ、得体の知るものなら、実際にいるのだが…
しかし、風の音と辺りを照らすのは僅かな懐中電灯の光のみの為、疾風が気付くことは無かった。
「こう暗いと何かいそうだな」
静かに刃梛枷が首肯する。音も無く歩くその姿は本物の幽霊のようだ。
その数メートル後方では、彼方を除いた全員が疾風と刃梛枷の動向を、ある者は憎らしげに、またある者は展開を期待して楽しげに二人の後を追っていた。
「う〜、疾風め…私を放ったらかしにしおってぇ…」
「疾風から離れろぉ…祟るぞ…七代祟ってやるぞ…」
疾風はぶるりと身体を震わせた。
刃梛枷は足を止めると疾風の顔を覗き込む。
「……寒いの…?」
「いや…何か今…妖気が……」
すると、刃梛枷は包む込むように疾風の左腕に自らの両腕を絡ませた。
「……これでどう…?」
「えっ!?」
「……寒くない…?」
「あ、ああ…大丈夫…ありがとう…」
どぎまぎとしながら疾風は礼を述べた。
心臓は無意識の内にその速度を上げる。
(う…いかん、いかん…刃梛枷は俺を気遣って、こうしてくれてるのに…不謹慎な…)
見事なまでに完全無欠の鈍さを発揮する。
疾風は高鳴る鼓動のまま、歩き出した。
「「むぐー!!」」
希早紀と朧に口を塞がれた楓と千代子が声にならない叫びを上げる。
「霞さん、録れました?」
「ええ♪もうばっちりです♪この特殊遠赤外線カメラにとって、闇など敵ではありません♪」
誇らしげに構えたビデオカメラを撫でる。
「そろそろ、火の玉が出てきたところだね」
希早紀のその言葉とほぼ同時に疾風と刃梛枷の前にフワフワと揺れる青白い炎が現れる。
よく見れば、細い糸が青白い炎によって浮かび上がっている。
刃梛枷は一度、足を止め、その火の玉を見つめた。じっと何かを考えるようにすること数秒、思い付いたように絡める腕に力を込める。
「……怖い…」
感情の籠らない声音で呟く。
「大丈夫?」
疾風も、本気で怖がってるわけではないと思ったが、一応形式的に問い掛けてみる。
刃梛枷はこくりと頷いた。
「じゃあ、進もうか」
また、何も言わずに首を静かに振った。