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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ9-2

しかし、その翌日も、さらに次の日も、青空は葵をつかまえると同じことを聞いた。
「………あのさ、別に話すことなんてないの」
「うそだよね。俺は気付いてるよ。なにか困ってるんでしょ?」
「……本当いい加減、迷惑なの!」
「……それでも俺は葵ちゃんの力になりたいから」
「なんで、青空くんは由貴ちんが好きなんでしょ?だったら由貴ちんのことだけ気にすればいいじゃん!」
葵の苛立ちは限界まできていた。
しかし投げやりな態度で声を張っても、青空は冷静なままだ。悲しそうな目をしている。
「俺はそんなことできない。俺は五人全員が大切だから」
恥ずかしげもなく青空はそんなことを言う。
その言葉に葵はキレた。
「そんなの偽善じゃない!」
「…………」
葵は今日も走って逃げ出してしまった。

誰もわかってくれるはずない。
葵はそうとしか考えられなかった。




『………偽善、ね』
「うん、あれはキツかった」
青空は苦笑いしながらビールのおかわりを店主に告げた。
めずらしく、今日の武士道の客は瞬と青空の二人だけだった。
『きっと何かがあるんじゃないか?俺らじゃ理解できないような複雑なことが』
「………うん」

樋青空という人間は、根っからの正義の味方である。
小さい頃からいじめっ子の前に立ちふさがることなど数え切れないほどあったし、誰かの相談に常に乗り続けた。


『おい!青空!酔っ払い過ぎだっつの』
「はぁー?いいじゃん!無礼講無礼講!」
『あのなぁ…だからって』
「もう無礼講過ぎてブレイクスルーだよー」
『………すいません、よろしくお願いします』
すっかり出来上がった青空をタクシーに押し込むと、瞬は駅まで歩き始めた。





「………はぁ」
なんてこと言っちゃったんだろうか。
偽善なんて…
青空くんはそんな人じゃん。
いつも周りが見えていて、誰にでも優しくて気が利いて。
うちを助けようとしてくれたんじゃん。
「明日謝ろ…」


しかし、罪悪感と、冷たくあしらわれるのではないかという不安が先に出てしまい、謝ることはできずにいた。

翌日からは青空くんはいつものように姿を見せなかった。
さすがに怒ったのかと思い、ますます謝ることはできなくなった。
六人で集まっても、お互い口を利くことはなかった。


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