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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ9-1

秋も終わり、段々と風が冷たくなってきた。空は灰色で、今にも雪が降りそうな感じである。

今日は六人が集まり、クリスマスパーティーの計画を練っていた。
『なに食うか、じゃなくて、どこで集まるか、だろうが』
瞬は頬杖をつきながら灰慈を見る。
灰慈はカチンときたのか猛反発する。
「ええやん!ケーキはやっぱ駅前の…」
「子供ね」
由貴が髪をサラリとかきあげながら呟く。
「うっ……」
最近、灰慈は由貴に防戦一方だ。ただ反撃できないだけだが。
「ね、葵ちゃんは何もアイデアないの?」
「そうだよ、葵ちゃんイベント好きだし」
悦乃が話をふり、青空が笑いかける。
「………ん、ごめん、思いつかない」
『……どうした?体調でも悪いのか?』
「葵、顔色が悪いわよ。何かあった?」
瞬と由貴が同時に問いかけた。
「え?んーん、なんでもないよ」
葵はニコッと笑う。
「…………」





「結局、今日は決まらなかったね」
『……そうだな』
瞬は今日も悦乃の部屋でコーヒーを飲んでいた。
『今日もなんか弾いてくれ』
「はぁい」
これも習慣化していた。
悦乃のピアノを聞くと、不思議と気持ちがよくて、心が洗われる感じがするんだ。
もちろん、そんなこと恥ずかしくて口に出さないけどな。





葵は自宅で一点を見つめる。
可愛く装飾されたケータイのディスプレイ。
震えた手で着信履歴を開く。
そこにはびっしりと“父親”の文字が並んでいた。

何でだろう。
何でうちが。

何で。
何で。
何で。


葵は恐怖していた。
数週間に一回だった着信は、数日に一回、一日に一回、そしてもうすぐ数時間に一回になるのではないだろうか。
何でそんなに電話をかけるの?
家では口を利かないから?
怒ってるの?

次は自分が父親のストレスのはけ口にされるのではないか。
そう考えると夜も眠れなかった。


翌日、葵が講義を終えると、講堂の入り口に青空が立っていた。
「……めずらしいね。どうしたの?」
「……あのさ」
青空は複雑な顔をしていた。

二人が大学の中庭にあるベンチに座ってから、すでにかなりの時間が経過した。
「……もう行くよ?」
さすがに葵も苛立つ。
すると慌てて青空は話し始めた。
「……葵ちゃんさ、最近なに悩んでるの?」
「え?」
「言いなよ。話聞くから」
「……ごめん、なにもないから気にしないで」
「でも……」
「ごめん!」
葵はその場から逃げ出してしまった。
「………」


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