ヴァンパイアプリンス9-1
「宏樹!!お昼作りに来たよ!!」
片手にお昼の材料を持って、鼻を赤くした彼女が来たのは土曜日の11時だった。
―ヴァンパイアプリンス9
「…ねぇ、本当に手伝わなくていいの?」
月下によるお昼作りが始まった。月下はキッチンに向かって、何やら格闘しているようだ。
「い-の!!宏樹は待ってて!!」
視線をキッチンに向けたまま、月下は答える。
宏樹は微笑ましいと思うのと同時に、少々心配でもあった。
(不器用なくせに…)
彼女はそこまで器用ではない。
きっとそのうち指でも切ってしまうのでは…と、宏樹が考えた矢先、
「いィィ!!」
悲鳴にも似た声が月下から発せられた。
「…切った?」
月下はゆっくりと振り返り、激しく首を縦に振る。
(やっぱり…)
宏樹は苦笑して、涙目の月下に歩み寄った。
「あぁ…血は出てるけど、そんなに深くないね」
傷口は深くはないものの、とめどなく血が流れている。
その真っ赤な血の綺麗さに魅せられて、宏樹はおもわず傷口に舌を這わせた。
「ひゃっ」
月下の血は…甘い。
前に処女が一番旨いと言った事があったが、月下の血は処女を失ってもなお、旨いままだ。少しも穢れないまるで月下の心を映すように、濃く甘く美しい血。
宏樹のものになってでもその血を戴こうとする雅人の気持ちもわかる。
強めに血を吸って止血をした。指から月下に目を移すと、頬を紅潮させた月下と目があった。
「宏樹…」
紡ぎ出された自分の名につい顔が綻び、その唇に口付ける。
「んッ」
「月下…」
「ん?」
「…お腹すいた」
「…うん?」
「もうペコペコ」
「う-ん、言ってる事はわかるんだけどね。お腹すいてる…んだよね?」
「…ん?」
「可愛く首傾げて言っても駄目!!ちょっと足触って…んんッ」
そう、宏樹は月下の太ももを撫でていた。
「月下不足で死ぬ…」
男の理性ほど脆く儚いものはない、と宏樹はしみじみと思った。
「や、ちょっと…」
「補給しま-す」
ずいっと月下に近付くと、躊躇いがちに腕に手を添えてきた。
「ま…だお昼だよ?」
「だって、夜になったら雅人が帰ってくるじゃんかぁ。」
「うん…まぁそうだよね。」
月下は困ったように眉を下げる。
「ね?」
宏樹は懲りずに、月下のおでこにキスを落とした。
「でもお昼ご飯…」
「お昼より月下」
「エロ宏樹…」
視線をずらすも、月下は満更でもないようだ。
(あくまで宏樹から見ると、だが。)
「何とでも…」
宏樹はクスクス笑って月下の腰を抱き寄せた。
「…あ。」
「ん…?」
何かを閃いた宏樹に、ほんのりと紅潮した顔で月下は尋ねる。
「どうしたの?」
宏樹はニヤリと口を吊り上げた。