貴方の妻にしてください-5
「あ、土産。忘れてたよ。」そういうと紙袋を真由美に差し出した。
「え?お土産?」真由美の目が輝いた。
走り寄った真由美は袋を覗いてわぁっと笑みを満開にした。
「あーー!ここのアイス大好き!うれしいっ洋ちゃんありがとー」
少女のようにアイスクリームに小躍りして喜ぶ。
「ドライアイス、ぎりぎりセーフだぁ〜よかったぁ。鍋の後ってアイス美味しいんだよね〜!さすが洋ちゃん」
保冷BOXから冷凍庫へ移しながら本当に喜んでいる。
まだ開店準備の店員さんにムリを言って買って来て良かった・・と
こんなお土産でこれほど喜ぶ真由美に心が揺さぶられるほどの愛しさを感じた。
夕飯は寄せ鍋と酢の物 おつくり。つくりは半分こしようと真由美が言った。
そういうのが二人暮らしの食卓の日常なのだと感じた。
もてなしの客でなく、分け合って十分なのだ。
日本酒にした。私もいただこうかな、と真由美もぐい飲みを差し出した。ついでやると美味そうに一気に飲み干した。
私が取っちゃったから、そのぶんサービスねと二本の銚子を味わった。
食べながらも真由美はよく喋った。
子供の頃の話や家族のこと。
もちろん、今の子供や主人のことではない。
親や兄弟、祖父母、学生時代の話などだ。
洋一もつられてか気分もよく饒舌になった。
学校の留守番とはいえ、花壇や構内の菜園の世話など親の世話の大変さも、ユーモラスに話すことができた。
それも真由美がコロコロとよく笑い、目を輝かせて熱心に洋一の話に聞き入る聞き上手なせいであった。
楽しい団欒の食卓だった。
毎日、毎日 認知症がすすむ親と無言で流し込む生きるための作業の一つでしかない食事とは大違いだ。
このひと時だけでも大層な価値がある。
洋一には夢の中の出来事であった。
食後の片付けを待つ間、ソファでビデオを観いてた。
洋一の好みの洋物ウエスタン映画である。
片付けが済んでタオルで手を拭きながら真由美が声を掛けた
「洋ちゃん、熱いお茶いる?コーヒーがいい?」
「んー、じゃあ、お茶もらおうかな」
揃いの夫婦湯飲みである
真由美は洋一の横に腰を下ろしてお茶をすすりながら
ビデオを観ている。
静かに流れる時間。二人で並んでテレビを観る。
こんな時間も洋一には大変貴重で幸せである。
ゆったりと流れる自分の静かな時間、そこに真由美がいる。
それだけで、夫婦、ふたりの共有の時間なのだ。
だが、この世界には限りがある。
洋一は考えたくない期限を頭から追い出し、しかし無駄に過ごしたくない欲望で平安な幸せのひと時をムラムラと沸き立つ欲望へと支配を譲ろうとしていた。
「真由美・・」
「ん?なに?」振り向いた真由美の肩を抱き寄せて唇をふさいだ。もちろん、抵抗はしない。
真由美は洋一の腕の中にすっぽりと入り込んで静かに目を閉じていた。
洋一は真由美の唇の柔らかさを確かめるように何度も自分の唇を押し付けては離し、やがてその湿った唇を舌で開き、こじ開けてねじりこませた。
若さとは何をもって言うのか
65歳の洋一は今はただの男、しかも青年の熱情をもって真由美を愛おしく貪った。
舌をねじ込み、真由美の舌を捕らえる。
絡ませて、混ざり合った唾液を飲み込む。
舌をさらに押し込むと真由美が軽く吸った。
受け入れられた思いが心と体を痺れさせた。
真由美も舌を伸ばしてくる、吸ってくれといわんばかりに