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僕とお姉様
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僕とお姉様〜お姉様の恋〜-4

「手切れ金じゃなかったの?」
「そう!これ退職金なんだって」
「退職金!?」
「笑っちゃうよね、勘違いもいいとこ。会社の事務員が渡しそびれたから社長の息子の健太に頼んだんだって。それが別れ話の最中だったから、あたしすっかり手切れ金だって思いこんじゃってさー」

けらけらと明るく笑う姿にかけられる言葉は一つ。

「くっっだらねぇ…」

平成生まれが嫌いだとか言って絡んできたのも結局全部思い込みのせいかよ。

「ほんとだよね!あはははっ」

イヤミも込めて言ったのに伝わった気配はない。でもその元気な笑い声は最後にはため息に変わった。

「健太ね、気になる子がいるんだって」
「へ?」
「あたし達痴話げんかがこじれて別れ話になってね、引っ込みつかなくなっちゃったんだ。こんな結果になったのは仕方ないって納得はしてたけど、あたしと今日ちゃんと話せたからこれで心置きなくその子を好きになれるって言ってた」
「…へぇー」

急激に速度を速める心音。
それはつまり、あいつとは終わりって事?

「だからうまくいきたきゃタバコやめろって説教してやった」

そんな風に得意げに話すお姉様だけど、声のトーンは一気に下がっていった。

「やーまだ」
「…なんすか」
「貸して、ここ」

細い指が指定した場所は僕の肩。意味が分からなくて聞き返そうとした時、

「!?」

お姉様の額がことんと僕の肩に乗せられた。
意識する前ならともかく、気持ちを自覚した後にこれは強烈…

「…」

震える肩と耳元に聞こえる小さな嗚咽。
すがられてる嬉しさもあり、他の男を想って泣かれる切なさもあり…
ほんと勝手な人。
だけど、誰がどう思おうと、こんな僕に感情をさらけ出してくれるお姉様が可愛くてたまらなかった。


「彼氏が高校生なのも面白そうって好奇心から始めて、いくら途中から本気になったって最初から本気な人からしたらムカつくよね」

落ち着いてきた頃、お姉様は別れの原因を教えてくれて、同時に元彼の言った『物珍しくて付き合うだけ』の意味も理解できた。

「今更だけど傷つけたんだなーって。何であんな軽い気持ちで付き合っちゃったんだろ」
「次、気をつけたらいいんじゃないすか?」

微妙に的外れな僕の意見を聞いて、ようやくお姉様の顔が上がった。触れていた部分を空気が通り抜けるのが少し寂しい。

「そうだね、その通りかも!」

泣き止んだばかりの笑顔がいじらしくて切なくて僕はやっぱり目を反らしてしまう。

「あぁ…そうだ、二千円」

それをごまかす為に手のひらを出した。

「二千円?」
「好きな人ができたら二千円だろ」
「えっ、山田もうできたの!?」
「一応ね」

それが自分の事だとは夢にも思ってないようだ。僕ってこーゆう恋をする運命なのかな。
お姉様は財布から二千円を取り出すと人の気も知らずに無邪気に言った。

「今度は上手くいくといいね!」
「…そっすね」

全てあなた次第ですよ。
受け取った二千円を小さく畳んで引き出しに入れた。

これを返す日が来ませんように

繰り返し願い、そっとそこを閉じた。


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