僕とお姉様〜お姉様の恋〜-2
風呂上がり、部屋に戻ると珍しくお姉様は起きていた。と言っても僕に背を向けて寝転び、携帯相手に親指を動かしている。静かな部屋に本来小さいその音はやたら響く。
僕は深く息を吸って呼吸を落ち着かせてからまず謝った。
「ごめん」
お姉様の体勢は変わらず、目は携帯の画面に向けられたままだがこっちとしてはその方が話しやすいので早速本題に入らせてもらう事にした。
「この前あいつに会った」
「…あいつ?」
「元彼」
「えっ!?」
起き上がりこっちを向く。ようやくまともな反応を見せてくれた。
「けんた君だっけ」
「…うん、健太。何か話したの?」
「ちょっとね」
「元気だった?」
「うん」
「そっか」
どことなく嬉しそうな表情、この口調。やっぱりまだ好きなんだ。
「あんたの事気にしてたから、あと…」
「あと?」
一番言わなくちゃいけない事。小さく息を吐いて、風呂場で考えたセリフ通り話した。
「あいつ、手切れ金なんか知らないって」
「…え?」
「あんたの勘違いかもしれないから、一回会ってみれば?」
よし、言ったぞ。これでここ何日か抱え込んでいた罪悪感から解放されて僕の心も軽くなる。結果、この人がここを出て行く事になっても僕は―…
「気にしてくれてありがとう。あたし連絡してみる」
…僕は、後悔しない…?
人が変わったような明るい笑顔だった。
「…どういたしまして」
確かに心は軽くなったけど、すっきりしてない。もっとシャボン玉や風船の様にふわふわ浮き上がると思っていた。でもこの心境はそんな爽やかさも清々しさも持ち合わせてない。
例えるなら曇り空のよう。灰色にくすんだそれは空に浮いてはいるけど重々しくて寂しくて。
複雑。
正にそれだった。
翌日、キムチ鍋を作ったのは僕。
頼まれたわけではないけど、朝から出かけているお姉様が我が家の夕食の準備の為に帰ってくるとは思えないからだ。
今頃あいつに会ってるんだろうな。何話してんだろ。
…うまくいったのかな…
気にしない気にしない。
…気になる。
気になる!!
どうでもいい事だと割り切れない。出て行かれたら困るから。何でそんなに困るのか。ここに置き去りにされたくないから。何で置き去りにされたくないのか。それはひばりちゃんの事が…、
「強君?」
「うぉっ!?」
いつからいたのか、心配そうに僕を見つめるひばりちゃんがいた。
「思いつめた顔で包丁を握り締めてるから…大丈夫?」
まな板の上には手付かずの白菜がゴロンと横たわり、包丁の柄はしっとり汗ばんでいる。
「うん、大丈夫」
「そう?ていうか、今日は強君がご飯作るんだ。お姉さんは?」
「お出かけ」
「ふぅん。あたし手伝うね」
好きな女の子と並んで台所に立つなんてまるで夢のようなシチュエーション。
でも、何か違う。
何て言うか、普通なんだ。
緊張して手が震えるとか嬉しくて思わずにやけてしまうとかは全くなくて、お姉様の事だけが気になる。