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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-89

 結花にとって不運だったのは、大和には既に魅せられ始めた女性がいることだった。だが、その気持ちがまだ揺らぎを見せている現段階において、まだまだ結花の入り込む余地は存在していたのも事実である。
 それでも結花は、慎重になってしまった。まだ、大和が自分のことを“後輩”としか見ていないのでは、告白しても結果は見えている。そうすることで、大和が余所余所しくなってしまったら、泣くに泣けない。そんな自分の想像に、怯えてしまったとも言っていいだろう。
 まだ、時間と機会が必要だと結花は思った。しかし、彼はもうすぐ卒業してしまう。
(私も、双葉に行こう!)
 そこで軟式野球部に入る。そうすれば、大和との接点はもっともっと深まるはずだ。その時に想いを告げれば、望む結果が手に入れられるはず。
(何処までも、追いかけますからね、センパイ!)
 まだまだ結花は、前向きだった。




「おかえり、大和」
 和恵は既に帰宅していた。いつも帰りが遅くなる彼女にしては、相当に早い時間帯での帰宅だ。
「遅かったのね」
 そして最近の大和にしては、今日の帰宅は遅い部類に入っていた。
「寄り道? ふふ、なかなか余裕あるじゃない」
「やることは、しっかりやるよ」
 母の茶々にも大和は冷静だ。そんな愛息の様子に、和恵は少し意外な顔をする。
「この頃、ほんとに変わったねえ」
「え?」
「なんだか、イキイキしてる」
「そ、そう?」
 意識してはいないが、そう言われれば否定はできそうもない。このところ、毎日が正直な話、楽しく過ごせている。“受験生”という暗鬱さに潰されることもなく、だ。
 そもそも、バッティングセンターに足を運び、それを愉しんだというもの昨今にはなかったことだ。野球に対する前向きさも、この頃は顕著になっている。
「電話のあの子に逢ってたの?」
「そ、そういうんじゃないって。今日は、たまたまだよ」
「ふ〜ん」
 桜子から定期的にかかってくる電話を、何度か取り次いだこともある和恵だ。その電話を渡すたびに、喜びを隠し切れていない息子の表情を、母は微笑ましく見ている。

 ルルルル!

「あら」
 そんなやり取りの最中、電話が鳴った。その時間帯に思うところがあり、にやり、と頬を緩めた和恵が、大和よりも先んじて受話器を取る。
「はい、草薙でございます。あらぁ、蓬莱さん。いつも、ありがとうね。」
 大和の方を、ちらりと窺ってくる和恵。どうやら、受話器の向こうは桜子らしい。
「ええ、いるわ。ちょっと、待っててね。……はい、大和。愛しの君から」
「か、母さん」
 頬を少し熱くしながら、大和は受話器を受け取った。
「もしもし」
 母に見られているという気恥ずかしさは、しかし、桜子と弾む会話に没頭する中で忘れてしまった。もう11月を迎えているので、なかなか逢うことは出来ないでいるが、こうやって電話で互いの調子を確認しあっている。なにしろ、目指す大学は全く同じ所だからだ。
 この桜子からの電話が、大和にとって大きな活力となっている。それは、事実だ。彼にとって桜子の存在はそれほど大きなものになっていることの証である。
 それが異性に感じる特別なものなのか、それとも、友達以上に親しい間柄としてのものなのか、正直、大和には掴みかねているところもある。
「そうだね。うん、蓬莱さんも風邪には気をつけてね」
 だがしかし、桜子と同じ大学に進み、同じ軟式野球部で切磋琢磨したいという想いは、確実に大和の中で育ち、華を咲かせていた。


 そして、春。
 新しい季節は、草薙大和と蓬莱桜子を新たな舞台へと立たせていた。




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