『SWING UP!!』（第１話〜第６話）-69
（悪い流れが、一気に来たんだ。それを、断ち切れなかった）
そのあたりに、チームとしての未成熟さが窺える。
（でも、僕にはなにもできない……）
そんな自分がもどかしく、そして、歯がゆい。この試合における大和は、あくまで“観戦者”なのだ。試合を戦っている“当事者”でない以上、その輪の中に入ることなどできはしない。
悪い流れは、以降も続いた。不運な当りの安打が続き、塁が埋まったところで相手の主砲を迎えた雄太は、不用意にも甘いところのストレートから勝負に入ってしまい、それをものの見事に痛打された。
外野手の間を綺麗に抜ける、走者一掃のロングヒット。この回だけで、双葉大学は一気に５点を?ぎ取られてしまった。
「………」
１点とはいえ、終盤まで勝っていた試合だ。それを、あっという間にひっくり返され、さらに４点の差をつけられた。
享和大｜０００｜０００｜５ ｜５｜
双葉大｜１００｜０００｜ ｜１｜
１と０が整然と並んでいたスコアボードに記された“５”の数字。あまりにも不自然で、どこか滑稽にも見えるその数字は、しかし、双葉大学のベンチにとてつもなく暗く重いものをもたらす。
「みんな！ まだ、終わってないよ！ がんばって！！」
必死に運気を呼び込もうと、声を枯らす桜子。
「アウト！ ゲームセット！！」
しかし、失ってしまった勝負の流れをもう一度引き戻すことはできず、その後も享和大学に追加点を許した双葉大学は１−７で敗れ、１部昇格を逃すことになってしまった。
「負けちゃった……」
最後の打者・留守のフライを、立ち上がって追いかけていた桜子は、それが相手野手のグラブに収まった瞬間、力が抜けたようにベンチに腰を落とす。
（………）
“この試合は、負けるべくして負けた。敗因は山のようにある――――”
「っと……」
敗戦に肩を落とす双葉大学の面々。あの雄太でさえも帽子を深く被って、目元を隠している。
（僕は、厭なヤツだな……）
そんな彼らを見ながら、何処か冷静に試合を反芻している自分を見つけた大和は、その冷えた感情がとても醜いものに思え、慌ててそういったものを頭から切り離した。
「あー、残念！」
不意に、帽子をむしりとって高々とかざす雄太。そのまま声を張り上げて、桜子の方に腕を振る。
「桜子、悪いな！ 来年も、２部でやんなきゃいけなくなっちまった！」
少しばかりトーンは落ちているが、雄太の声音にはしっかりした芯があった。そのあたりの気持ちの切り替えも、彼は早いらしい。
「待ってるからよ。今度は、みんなで、絶対に１部に行こうぜ！ ほれ、泣くなよ、品子！ また来年、頑張ればいいだけのことじゃねえの！！」
そう言うと、再び帽子を被り、俯いて目元を抑えている品子の肩を強く叩いて、奮起を促していた。一瞬だけ交錯した雄太の視線は既に、負けてしまった試合のことを振り切って、次のステップを目指した光芒に煌いていた。
（強い人だ）
それが、とても好もしい。大和は、この双葉大学……特に、屋久杉雄太という存在に、強く惹かれるものを感じた。
（………）
このとき彼は、揺らぎを見せるばかりであった自らの進路を決めたといってもいいだろう。しかもその決意は、最終的な意味において、大和に大きな福音をもたらすことになるのだが、さすがにそこまで考えを至らしめることなどできはしなかった。