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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-68

「草薙君……」
 不安そうな、桜子の声だ。珍しくも、彼女の表情から陽気が消えている。
(相手は、カーブを狙ってくる……)
 雄太は、背負った走者に目線での牽制を施してから、モーションを始めた。
(牽制が足りない!)
 目線だけの牽制など、何の効果にもならない。
(牽制球を何回か投げて、相手の出方を窺わないといけないところなのに!!)
 と、大和が思った瞬間であった。
「!」
 二塁走者と、一塁走者が、同時にスタートを切ったのだ。
「ダブルスチールだ!」
 そして、雄太の投じたボールは、ゆっくりと大きく曲がり落ちるカーブ。確かに曲がり際を叩くのが難しい球種だが、しかし、この場合においてそれは、その特徴がそのまま弱点になる。
「く、くそっ!」
 捕手の留守がそのカーブをミットに収め、素早く三塁に送球したものの、既に走者のスライディングの足がベースを蹴っており、双葉大学はあっという間に二つの塁を盗まれてしまった。
(ソツがない)
 ストレートよりも遅いボールを投じたときに走られたのだ。それに、牽制が足りないこともあり、走者のリードはかなり大きなものだった。双葉大学の隙を突いた、見事なダブルスチールだったといえる。
 無死二・三塁。双葉大学の抱えたピンチは、限りなく大きい。1点をリードしていたときの余裕は、いつのまにか消え去っていた。
(塁を埋めるか、それとも前身守備で行くか)
 こうなった時の対処法は、とにかく方針をきちんと定め、それを徹底的に行うことである。迷いを見せ、半端なことをすればそれは相手の思う壺だ。
「………」
 しかし、双葉大学の守備陣に動きは見えなかった。
(まずいな。呑まれてる)
 瞬く間に迎えてしまった危機に対し、冷静な思考ができていない。こういうときは、ベンチワークを発動させて、外側からチームを救済するのがセオリーなのだが、その動きもないようだ。
(監督は、いないのかな?)
 そういうことはない。初老の、眼鏡をかけた男が確かいた。しかし、おそらくは野球に通暁していない、いわゆる“形だけ”のものなのだろう。
 余裕を失ったまま、雄太が相手に投じた初球は、明らかに勢いを失った棒球であった。

 キィン!!

「あっ!」
 桜子が、声をあげる。鮮やかな響きを残したバットの一閃から弾かれた軟式ボールは、右翼を守る品子と、中堅を守る栄村の中間に飛んだ。
「!」
 互いに追いかけていた二人の間に、ボールが落ちる。普通に栄村が追いかけていれば、それは捕球ができたかもしれない打球であったのだが、どうやら品子が視界に入ったらしい。失われた余裕は、外野守備の基本である“掛け声”を忘れさせていた。
 三塁ランナーがこれで生還し、まずは1点。
「あ、あっ……」
 品子のところにバウンドが跳ねたボールを、なんと彼女はジャックル(お手玉)してしまった。ここできちんと確保していれば、同点で終わっていたかもしれない。
 実は、野球に詳しいといっても品子は野球が上手くない。先に、“運動を苦手としている”と触れたことがあるが、それは今でも続いているのだ。
 彼女が試合に出ているのは、9人ギリギリの人数しかいない双葉大学の人員的事情によるものだった。品子にとっては酷な話だが、その“弊害”が出てしまった瞬間といえる。
 二塁ランナーもホームに還り、2点目が入る。享和大学が、双葉大学を2−1と逆転した瞬間であった。
「そんなぁ……」
 7回までは、攻略の糸口さえ与えなかったというのに、いとも簡単に逆転を許してしまった。そんな状況が信じられず、桜子は肩を落としてしまう。


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