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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-53

『……

「いいのよ。大和君は、そのままじっとしてて……」
 薄明かりの差し込む、彼女の部屋。飾り立てられた様子もなく、楚々とした雰囲気そのままに、静謐な空間の中で、二人は生まれたままの姿になっていた。
「ん、んむ……」
 包容力のありそうな丸い輪郭が可愛い彼女は、その口を大きく開くと、股の間で屹立している大和の業に唇を寄せた。
「く、あ、葵さん……」
 病院で知り合った、一学年上の少女。肘を壊し、消沈していた自分を励まし、優しく癒してくれた彼女を、大和は心から求め欲していた。
 彼女は、とにかく優しかった。そして、女の人だというのに野球にも詳しくて、それ以外には取り立てて話題のつくりようもなかった大和にとっては、これ以上ないほど理想的な人だった。
 “水野 葵”――それが、彼女の名前だ。
 肘の手術が無事に終わり、リハビリを重ねる中で、小児病棟によく出入りしていた葵と大和は知り合った。弟が入院しているそうで、ほとんど毎日、その見舞いに訪れるという。
 実は大和は、まず始めにその弟と知り合った。
『陸奥さんですよね? “甲子園の恋人”さん』
 彼は高校野球が好きで、よくその雑誌を通読していたという。その頃、ほとんどの記事が“甲子園の恋人”であった大和のものであり、それを通じて自分の顔を覚えたのだろう。
 緊張した面持ちで、リハビリに励む大和のところに近づいてきて、そして、せがまれるまま野球の話に華を咲かせていたときに、弟を探していた葵と知り合ったのだ。
『はじめまして。水野葵といいます。あなたは、“陸奥大和”くんでしょ? 可愛い顔をして、それでも凄い球を投げていたから、よく覚えているわ。……肘、残念だったわね。でも、大丈夫よ。肘のケガは、肩のケガとは違って、完治する確率はすごく高いから。プロの選手だって、肘を何度も痛めて、それでもその度に復活してきた人はいっぱいいるじゃない。私も、和也も、陸奥君をたくさん応援するから』
 初めて大和は、女性に好意を寄せた。“甲子園の恋人”と呼ばれ、数多の黄色い声援を浴びてきたにも関わらず、心を惹かれた女性は彼女が初めてだった。
 肘を壊し、いろんなことに意欲を失った中で、励まされたことも大きかったのだろう。また、彼女が弟以上に野球に詳しく、3年なので引退したが、高校では軟式野球をしていたという。“野球”というまたとない共通項が、大和を大きく惹きつけた理由のひとつである。
 寄る辺のない小鳥が、ようやく見つけた宿り木に擦り寄るようにして、大和は葵に惹かれていった。もしも彼女がいなければ、自分は野球を諦めていただろう。
『大丈夫、きっとあなたは元通りに投げられるようになるわ』
 葵は何度もそう言って、自分を力づけてくれた。
『え? わ、私なんかと?』
 葵の弟が退院することになり、それを彼女の口から訊かされた大和は、そのつもりがなかったのに気がつけば想いを告白していた。“彼女との絆が、離れてしまう”それが、大和には怖かった。
『フフ。また、病院に来る理由ができちゃった』
 だから、彼女が気持ちを受け止めてくれたときは、とても嬉しかった。そして、それを証立てするように、頬を紅くしながら唇を重ねてくれたことも…。
 大和の肘が、日常生活においては支障のないところまで回復すると、病院での逢瀬はほとんどなくなってしまったが、既に想いが繋がっていた彼女との交際はその後も続いた。
 逢瀬が終わり別れるときに、恥ずかしげに頬に口を寄せてくれる葵の仕草も、相手が年上だというのに、可愛いらしくて仕方がない。大和はこれ以上ないほどに、葵のことを
 ほんの少し背を押されれば、二人はさらに深い関係になるところまで心を通わせた。だが、なかなかそれ以降に進展しなかったのは、お互いのピュアな部分……つまりは、“照れ”が邪魔をしていたからだろう。何となく焦れながらも、キス以外はプラトニックな関係が続いていた。


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