『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-51
「入れ替え戦の、相手は何処や?」
「享和大学です」
龍介の問いには品子が答えた。
「享和大学って……そうなんか?」
自分たちが現役生の頃は、強豪の大学だった。初期の隼リーグでは何度も優勝していた大学だったが、それが1部リーグの最下位になってしまっているとは……。
「今の1部は、もの凄い混戦なんですよ」
「今年は、何処が勝ったんや?」
「星海大学です。とってもいい選手が四年生に揃っていましたから」
「ほう、星海大か……」
星海大学には、龍介も苦戦を強いられた想い出がある。しかしまさか、その時のエースだった女投手の弟が、野球の上手い姉と義兄に憧れ、二人が在籍し出逢った星海大学に進んで、その主力メンバーになっていたとは彼も知らないことだろう。……これは、余談である。
「ワイらの時は、櫻陽大学がダントツの強さやったが」
「あら? 蓬莱さんがいた大学……城南第二大学の三連覇は未だに伝説ですよ。櫻陽大と城二大で、“二強時代”って、言われてた時期じゃないですか。城南第二は、今でも強いですよ」
「そ、そう?」
やけに“隼リーグ”に詳しい本間品子。いつのまにか話の主導権が品子に移っていて、雄太はそれを聞く側に廻っている。
「享和大学も最下位になっちゃったけど、決して弱いわけじゃないわ……」
真剣な顔つきになり、今度の入れ替え戦に思いを馳せている様子の品子。
「大丈夫だって!」
そんな品子の心配を払うように、陽気に雄太が胸を反らした。
「俺たち、2部リーグじゃ敵なしだったんだ。この勢いでぶつかれば、絶対に勝てる!」
「過信は足元をすくうわ、雄太」
「心配ばっかりしてちゃ、いざってときにゃ萎縮するだけだって!」
「勝負事は慎重にいかないと、流れも見極められないまま終わってしまうわ!」
「だから!」
「なによ!」
「ありゃりゃ……」
今度は、二人で言い合いになってしまった。もっとも、それはよくある風景なので、苦笑を貼り付けてそんなやり取りを龍介は眺めることにした。
どちらも野球には真剣なので、それがぶつかり合うことは往々にしてある。逆にいえば、真剣なやりとりができるほど、この二人の間には強固な信頼関係があるということだ。小学校以来の喜怒哀楽を共にしてきたという二人だからこそ、その関係は築かれ、保たれてきたのだろう。それを好もしく思う、龍介である。
「ただいま!!」
そんな折、蓬莱亭の入り口が勢いよく開け放たれ、ぎゃあぎゃあと言い合っている雄太と品子のそれよりもさらに元気な声が響いた。蓬莱家の太陽・桜子が帰宅したのである。
「あら、桜子ちゃん」
「よう、桜子」
「あ、品子さんに、屋久杉先輩!」
二人の姿を見つけて、桜子の表情が輝いた。昨年、この二人が蓬莱亭の顔なじみになって以来、やはり野球の話が大好きな桜子も意気投合しているからだ。
「桜子! 今度、俺たち入れ替え戦に出るぞ!」
「ほんと!? 優勝したんだ! すごーい!!」
したがって、その辺りのことも熟知している。
「いつ? その試合、いつやるの?」
ずずい、と身を乗り出すように雄太に問う桜子。180センチの長身が覆い被さるように、座っている雄太に迫るので、思わず彼は身じろぎした。
「明後日の、祝日だ。9時から、城央市営球場でやる」
「入れ替え戦は、球場でやれるんだね!」
「そうだぜ。やっぱ、野球は野球場でやらねえとなぁ!」
話が盛り上がる。“小龍介”といって差し支えないほど、雄太は龍介に似た雰囲気があるので、やはり桜子とも相当に馬が合っている。
「あたし、応援に行く!」
「いいの? 受験生でしょ?」
しっかりしている品子は、そのあたりの心配も忘れていない。
「ちゃんと勉強してるから、大丈夫だもん! 双葉も、今のところA判定もらってるし……」
桜子の志望校が、附属の城西女子大学ではなく、双葉大学になったのもこの二人が影響している。加えて、桜子自身も史学・考古学に並ならぬ関心があり、そういった要素の重なりあいが、エスカレーターで進める城西女子大学ではなく、一般で試験を受けて合格を目指す双葉大学への志望に繋がったのだ。
桜子は、かなり賢い。もともと文系科目は、学年の中でもトップクラスの成績を持っていたから、少し苦手としている理数系を克服さえすれば、入試では文系科目に比重の高い双葉大学は完全に安全圏に入る。