『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-42
(草薙大和君か……)
ベッドに横たわりまどろみを待ちながら、桜子は色々な思いをめぐらせていた。
まずは今日の試合のことだった。初めて参加した野球の試合は、やはり心躍るほどに楽しいもので、顔面に死球を受けて痛い思いをしはしたが、その心地よさが褪せることはない。
自分のバットから放たれた、本塁打の軌跡。手のひらに残る感触は、今でも鮮やかである。
(………)
桜子は、左手のひらを見た。彼女はあまり指が長くないが、そのかわり、手のひらが広く大きい。
ふと、その手のひらに収まった、華奢な指先も彼女は思い出す。
宴が終わった後、メンバーたちがそれぞれ家路につく中、蓬莱亭の玄関先で桜子は大和を呼び止めていた。
『ま、また、一緒に野球できるかな?』
これで縁が切れてしまうことを、恐れたのだ。そもそも、学校のつながりもなければ、住んでいる所も近いとは言い難い。触れ合った絆が、そのつながりを維持するためには、それ相応の努力が必要である。
『そうだね』
だから大和がそう言って微笑んでくれたとき、桜子は胸が詰まりそうになった。こういう経験は、初めてだ。
『これ、僕の家の電話番号だけど……よかったら』
『あ、うん! ありがとう!!』
大和が差し出した紙切れを、桜子は大事そうに受け取った。
実は、大和にも、桜子との縁をまだまだつなげていたい想いはあったのだ。いつか渡そうとして、連絡先をポケットの中に忍ばせながら、そのタイミングを掴めなかったのは、女性との経験があるとはいえ、まだまだ大和も色恋には充分に慣れていないということだ。
『これからも、よろしくね!』
そのまま、大和の手を握り締めていた桜子。あの時は、自然にできた行為だが、今思い出せば顔が熱くなってしまう。女子高に進んでからは、男子と話す機会も今までほとんどなかった彼女だから、掌だけとはいえ異性と“触れあい”を得たことも、桜子にはとてつもなく新鮮であった。
その柔らかい感触が、今でも残っている。
(………)
『あ、あんっ……んんっ、あぅ!』
時間は既に、0時を廻っていた。隣の部屋からは、慣例の如く由梨の艶声が聞こえている。
『あ、ああっ、は、はげしいぃ! あ、あそこが……あそこが、こわれちゃう!!』
いつも以上にその情交が激しく、姉の悶えが凄まじいのは、互いの興奮が尋常ではないからであろう。なにしろ片方は、試合に勝った興奮と酔いが交じり合っている。
『だ、だめっ……そ、そっちの穴は……あああぁぁぁぁぁ!!』
従って、普段の性交の中では混ざらない愛撫も、ふんだんに由梨に塗されているに違いない。
『そ、そんなにえぐらないで! い、いやぁ! お、おしりの穴、かきまわしちゃ、いやぁあ! あ、あ、ああぁぁああぁぁぁ!!』
(………)
そういう艶声を隣に聞きながら、桜子は全身が静かに熱くなっていった。穏やかでありながら、しかし、確かな輪郭を持った昂ぶりだ。
どっく、どっく、どっく……
動悸が、胸から湧き起こる。
それが波紋のような広がりを見せ、気がつけば桜子の左手が、熱い火照りを生み出してきた股間のところに伸びていた。そのまま、寝巻きのズボンの中へと手を潜り込ませ、ショーツの上から、恥丘に手をあててみる。
「んっ……」
ぴり、と走る甘い痺れ。盛り上がっている恥丘を覆うような温みを掌に感じると、桜子の中指はその溝に沿うようにして、その蠢きを開始した。