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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-38

「そういうもんなんだよ、結局は」
「………」
 その一言は、何よりも松永の心を抉った。みじめさが込み上げてきて、松永はうつむいてしまう。彼のプライドは、完全に砕け散っていた。
 この時点で、シャークスの敗北は決定的なものになった。結局、松永は力のないスイングで空振り三振に倒れ、そのまま試合は終了した。
 大半が素人集団であるはずのドラフターズは、大会があれば必ずといっていいほど優勝候補の筆頭となる強豪・シャークスを、ものの見事に下したのである。



「えー、それでは」
 夕方を廻った蓬莱亭。ドラフターズの面々によって貸しきられた店内は、既に由梨の用意した豪華な料理と、店の余剰在庫から京子が進呈したビールで、テーブルのいたるところを賑わせている。
「我がチームの記念すべき初優勝と、愛する我が妹・桜子の大活躍、そして、桜子にとうとう出来たボーイフレンド・草薙大和君の華麗な一発に……乾杯!」
「おおー!!」
 トロフィーとグラスをかざしながら、音頭を取った龍介に続き、店内が盛り上がる。ユニフォーム姿のまま始まった宴会は、すぐに今日の大会の話題が飛び交った。
 ドラフターズは、優勝候補のシャークスを破った勢いそのままに次の試合でも勝利を収め、決勝で鈴木率いる“ドリーマーズ”と対戦した。
「いやぁ、それにしても桜子ちゃんはすごいね」
 チームでは最年長である多島が、早速ビールで顔を紅くしながら、今日の殊勲者である桜子の活躍ぶりを反芻していた。
「あたしだけじゃないよ。みんな、頑張ってたじゃないですか」
 それに…と、桜子は隣を見る。静かに料理を口に運んでいる大和がいた。彼は、自分がチームと関係が浅いことを慮り現地で暇を告げようとしたのだが、有無を言わせず蓬莱亭へと連れてこられていた。“そんな遠慮、無用、無用”とは、龍介の言葉だ。なにしろ、チームを優勝に導いたのは、この草薙大和なのである。
 ドリーマーズも、シャークスと並ぶ実力のあるチームだ。故に、ドラフターズは苦戦を強いられ、全力投球の京子が相手打線を0で抑える一方、味方もなかなか点を取ることが出来なかった。
 その均衡を破ったのは、桜子であった。甘いところに来たストレートを痛打し、準決勝での一発を含め、今日だけで4本目となる本塁打を放ったのだ。
 しかし、そのリードはすぐに、勝ちを意識した内野守備陣の乱れから失点を重ねたことで失い、逆に1−3と2点差をつけられたまま最終回を迎えた。
 すぐに二死を奪われ、追い詰められたドラフターズだったが、京子と桜子が相次いで出塁し、塁を二つ埋めたところで大和が代打に立った。
 その初球である。不用意にストライクを取りに来た勢いのない球を、彼は逃さずスイングし、弾丸ライナーで猛烈な打球を打ち放った。それは、“あっ”というまにフェンスを越えて、なんと、逆転サヨナラ3点本塁打になったのである。
 凄まじいまでの勝負強さ。“肘を痛めている”と訊いていなければ、龍介は迷わず彼をスタメンとして起用していただろう。
 一方で、殊勲打を放った大和は涼しい顔をしていた。あまり感情を露わにしないのは、彼が謙虚だからである。
(でも、嬉しそう)
 ただ、初めて出逢った時の、落ち込んだ暗い色合いの瞳は、キラキラした星が見えるほどの輝きを湛える瞳に変わっていたことに気づいて、桜子は今日の試合に誘ったことが、間違いではなかったと嬉しくなった。
「さあー、どんどんあがりますよぉ!」
 由梨の快活な声が響く。厨房に立つと、彼女は人が変わる。矢継ぎ早に、ビールにあうメニューを作り上げ、皿に載せ、次々とテーブルを埋めていった。
「………」
 かき込む様にメンバーたちはそれを平らげていき、ビールの進みも猛烈に早まっていく。
 アルコールが廻れば、話もどんどんと弾んだものになる。蓬莱亭の喧騒は、いよいよ本格的になった。
 未成年なので酒が飲めない桜子と大和は、素面(しらふ)であるが故に、その輪にはどうにも加われず、従って別のテーブルで並びあっている。


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