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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-32

「バッターアウト!」
 アウトコースギリギリのところを貫いたその球筋に対し、松永は圧倒されたように手が出せず、見逃しの三振に倒れた。
「ナイスだよ! 京子さん!」
 桜子がしっかりと捕まえたそのボールを、思い切り京子に投げて返す。スナップの利いた送球は思いのほか京子のグラブを高く鳴らした。地肩も相当に強そうで、捕手に必要となってくる要素をほとんど持ち合わせている桜子。
(あの娘は……完璧に、捕手だね)
 ふと思い出した“青い鳥”。捕手という大きな穴を埋める存在が、まさかこんなに身近にいたとは…。
「どんどん、いくよ!」
 野手陣に向かって気合を叫んでいる姿を見ても、桜子はすでにドラフターズの正捕手であった。



 桜子がマスクを被ってから、京子は見違えるような投球内容となった。
 これまでのものとは比にならない威力のあるストレート、そして、キレのあるフォークボール。力を抑えていたときは、タイミングを合わされ、苦戦させられたシャークス打線だが、京子が本気を出せる今となっては、むしろ相手にもならなかった。
 5回、6回と並み居るシャークスの打者を三振になで切り、消沈させる。
(ちっ……)
 さしもの松永も、ベールを脱いだ京子の真の実力に、何度も舌打ちを重ねた。
 試合は、終盤に入る。6回の裏の先頭打者は、2番の京子である。
(どうせ、“歩かし”だろうけど)
 これまでの2敬遠を思えば、この打席でも勝負を避けられるだろうと京子は思い込んでいた。
「ストライク!」
 だからその初球でストライクを奪われたとき、京子は驚いたように相手を凝視した。
(やるってのかい)
 ならば、と、京子は気持ちを引き締めて、構えを取る。
 松永の足があがり、タイミングを測るように腰のバネを絞る京子。

 シュッ……

「!」
 投じられたアウトコースのストレートに、コンパクトだが鋭いスイングで風を切って、京子は打ちにかかった。

 グンッ…

(!?)
 そんなスイングを避けるように、途中までストレートの球筋を描いていたボールが急にブレて落ちた。
「ストライク、ツー!!」
 そのため、描いたバットの軌跡はそのボールを捕らえられず、空振りをしてしまう。
(変化球!?)
 ストレートの球筋から、信じられないほどの変化を見せた松永の球。しかし、京子の中にあるライブラリには、その球種がどうにも捉えられない。
(フォーク? いや、揺れて落ちたから……ナックル!?)
 ボールの回転数を極限まで押さえ、空気抵抗に全ての変化を委ねるナックルボール。故に、打者も捕手も、投げた投手でさえも予測不能な変化をするその球は、しかし、爪弾くようにしてボールを握らなければならないから、スピードはそれほど出ないはずだ。なにしろ、その変化球を持ち球にしている京子だから、ナックルのことは誰よりも熟知している。
 松永の投じた“変化球”は、明らかにナックルとは違うスピードを有している。
「ストライク! バッターアウト!」
 今度は、鋭くスライドした。変幻自在に変化をする松永のストレートの前に、京子は頭の中の整理も出来ないまま三振に倒れた。
「やられたわ。あいつ、あんな球を隠し持ってたんだね」
 悔しそうに引き揚げてくる京子。チームでも随一の巧打力を持つ京子の三振に、ベンチの空気はわずかなりと沈んでいた。


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