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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-29

 3回を終了し、得点は5−4。ちなみに、この大会は1試合7イニング制を取っている。4回の攻防は、互いに三者凡退で終了し、試合は残すところ5・6・7回の3イニングになった。
 5回表のシャークスの攻撃は、この試合2安打3打点と好調な松永からである。
「京子くん、フォークを使おう」
 マウンド上に脚を運んでいた原田は、相手がストレートだけでは通用しないことを痛感している。
「………」
 それは京子も同様である。今、塁上にはランナーがいない。だから、原田がボールを後ろにそらしても、問題はない。
「わかりました」
 バッテリーは覚悟を決めた。
「プレイ!」
 京子はグラブの中で握りを確かめると、大きく振りかぶる。柔らかくしなる筋肉が引き絞った勢いを、そのまま右腕の振りに集中させ、その指先からボールを放つ。
「!」
 松永の胸元から、一気に膝元へとボールが失速し、落下する。それは地面を抉るようにワンバウンドし、それを追いかけた原田のミットにかすりもしないで、後方を転々とした。
「ほほう?」
 さしもの松永も、驚きを隠さない。京子が持っている力の全てを、これまで出してきたとは彼も思っていないが、このフォークの存在は予想外であった。
「す、すまん」
「ドンマイ! 原田さん!」
(………)
 だが同時に、なぜに京子がこれまでフォークを封印してきたかを察した。捕手の原田がこれを捕れないのでは、投げたくても投げられないだろう。
(くっくっくっ)
 その事実を知り、松永には余裕が出来る。落差と勢いに惑わされなければ、怖いものではあるまい。
 二球目、やはり高いところから急激な落差でフォークが決まる。
「ストライク!」
 それは、ストライクゾーンを微妙にかすめていた。

 ガッ……

「!」
 だが、やはりその変化についていけない原田のミット。しかも彼は、無意識のうちに素手であるはずの右手でもそれを追いかけてしまっていた。
 捕手として、剥き身である右手を晒すのはタブーだ。セオリーに従えば、背中に手を廻すなどして隠さなければならない。
 なぜなら、相手のファウルチップやバウンドしたボールの跳ねなどで、その右手に直撃してしまう可能性があるからだ。軟式ボールとはいえ、その衝撃は生身なら痛い。突き指をしてしまうこともあるだろう。
 そして原田も、捕球に集中するあまりその禁忌を犯してしまっていた。
「ぐあっ……」
 右手中指の先に熱い衝撃が走り、顔をしかめる原田。
 その出所を確認すると、赤いものが目に入った。なんと、中指のつめが剥がれ、出血していたのだ。よほどにタイミングと当たりが悪かったのだろう。
「………」
 血を見れば、怪我を自覚する。それに“生爪を剥がされた”わけだから、その痛みも尋常ではない。
 原田の様子がおかしいのに、ベンチもすぐ気づいた。龍介はタイムをかけ、主審はすぐにそれを受け入れる。
 グラウンドが、少しだけざわついた。
「大丈夫だ……」
「んなわけあるかい」
「大将、あたいがやる」
「お京はん、おおきに」
 本部テントから救急箱を貰い、それを受け取った京子が処理をする。プロ野球選手を旦那に持つ彼女は、ともにオフのトレーニングで汗を流すこともあったから、その辺りの心得は充分に積んでいた。
「いて……」
 消毒液をしみこませたガーゼで血を拭い、患部を洗う。すぐに当て布と包帯を巻きつけていくその手際は、よく慣れたものである。


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