『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-279
今までのセックスでは、完全に自分は受身になっているので、“してもらう”ことはたくさんあっても、“してあげる”ことは一度もないように思う。
(大和君も、あたしの……舐めたりするし……それと、同じことなんだよね……でも……)
躊躇いがないではない。やはり、イメージ的にも、その部分に口は運びにくい。ましてや、そこから出てくるものが、口の中に入ったり顔にかかったりするというのは、生理的にも受け入れるのに時間がかかりそうだ。
「?」
桜子の思考は、深いところまでたどり着いていた。集中力に優れていることが、ここでは彼女の不覚を呼んでしまった。
「へぇ…」
シャワーを終えて戻ってきた大和に、気がつかなかったのだ。しかも、アダルト専用チャンネルの画面を映したままで…。もしも、考えに没頭していなければ、シャワーの音が止まった時点で、彼女はビデオの電源を落としていただろう。
「エッチだね」
「!? あっ、や、大和くんっ!?」
ようやく気がついた。そして、全ての状況を鑑みたときに、どえらい失態を犯してしまった自分の愚かさにも気づかされた。
「あ、ち、違うの! これ、テレビ見ようとしたら、その、チャンネルがわからなくて……!」
何を錯乱したのか桜子は、電源を落とそうともせずに、リモコンを胸に抱えるだけだった。
“あんっ! あぁっ! あっ! ああぁあぁぁぁぁぁ〜っ!”
新しい映像でも、共通したような喘ぎを女優は挙げている。内容も画一的なのだが、それが“アダルトビデオなんだから”と言ってしまえば、身も蓋もないところだ。
「こういうの、見るの初めて?」
「えっ……あ……う、うん……はじめて……」
責める様子もなく、大和は桜子の側に腰を下ろすと肩に手を廻してきた。そのまま、体を引き寄せられて、なすがままに桜子は、彼に身を預けた。
しばらく二人は、卑猥な画面と向き合っていた。
「け、消さないの……?」
「リモコン、きみが持ってるから」
「あ、そっか……」
握り締めていたので、すっかり熱くなったリモコンを、震えながら操作した。
“いやあぁぁん!! あああぁあぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!”
「きゃっ!」
間違えて、音量を最大にしてしまったのは、古典のお約束である。ボタンの位置が、遠く離れているのになぜ? という指摘はしないように、諸君。
「ふふっ。しょうがないな」
苦笑しながら大和は、リモコンの上にある桜子の手に自らのそれを重ね、電源の入り切りをする赤い丸ボタンを人差し指で押した。かくして、部屋の中には静寂が訪れたのであった。
(うぅ……)
桜子の中に、恥じらいと興奮をたっぷり残して…。
(ど、どうしよう……もう……ヌルヌルになっちゃった……)
その証が、シャワーで念入りに清めたにも関わらず、濡れてしまった股間であった。愛撫を受ける前に、彼女の身体は早くも準備万端になったのだ。
「桜子さん……」
「あっ……んっ……」
不意に、ベッドの上に桜子は押し倒された。大和の息が、とても荒い。彼もまた、興奮を抑えきれなくなったのだろう。
「あっ……あっ……んっ……んんっ……」
彼の興奮が、体中の至るところに愛撫として降ってくるので、堪らず桜子は甘い声を挙げていた。その脳裏には、先まで見ていたアダルトな映像が鮮明に残っている。
もちろんその中には、やったことのない“口での奉仕”も含まれていた。試してみたいという興味が、ないといえば嘘になる。どんな感触が、口の中に広がるのかと…。
(でも……今日は……このまま……)
大和に全てを預けて、心から気持ち良くなりたかった。半可な知識を振うには、少しばかり余裕がない。それに、大和がこうして積極的に愛してくれるのであれば、それを遮ってまで我を見せるのは、反って野暮になってしまう。