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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-276

「この部屋に、するよ?」
「う、うん……いい……」
 そのホテルは自動式の受付だったので、空き部屋の番号を選べば鍵が出てくる。それでも誰かに見られているような気がして、顔をあげられない桜子は、大和が示した部屋のパネルを確認することもなく、ただ頷くだけだった。
 その大きな体を、大和の背中に隠すように小さく竦めて、よたよたと歩く姿はとても滑稽なものである。途中、場所に慣れているようなアベックとすれ違ったのだが、その堂々とした様子が桜子には信じられず、とても真似が出来そうにないと思った。
 距離にしてほんとうにわずかだったが、桜子には永劫にも似た道のりであった。ようやく部屋にたどり着き、中に入るなり、彼女は力が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
「ふえぇぇ……」
 泣きそう、というより、半分泣いている。恥ずかしさが度を越えて、乱れた感情の収まりがつかないのである。
「大丈夫?」
「だ、だいじょ……ぶ……あっ……」
 応えるより先に、抱きしめられていた。

 どき、どき、どき…

「………」
 大和の体温と鼓動が直に伝わってくると、不思議なことに、気持ちが安らいでいく。早鐘のような大和の鼓動が、自分を求める想いの強さを、何より伝えてくれるから…。
(多分、初めてじゃ……ないんだろうけど……)
 彼は、こういう部屋に来たことがあるのだろう。聞かなくても、その冷静な立ち居振舞いを見ればわかってしまう。そして、この部屋に来るということは、彼の側には誰か相手がいたはずで…。
(だめっ)
 それは、考えたくない。そして、当然だが、尋ねてもいけない。その瞬間、この甘さを伴った暖かな時間は、雲散霧消して跡形もなくなってしまうはずだから。
(あたしが……あたしが、大和君の恋人なの……今は……)
 過去にこの部屋に来た経験や、その時の相手が誰だったかということに、思いを巡らせる必要はない。今、大和の側にいるのは自分で、求めているのも自分なのだ。
 彼のことが好きだと言う気持ち。それを…それだけを、強く信じていればいい。
「好き……好きなの……」
 信じる想いはそのまま、言葉となって紡ぎだされた。
「桜子さん……」
 ぎゅ、と抱きしめる腕に力が込もる。その息遣いと動悸が、荒く激しく昂ぶっていくのが、良くわかった。
 引き寄せあうように視線が交わり、やがて顔が近づいて、二人の唇が重なった。今日だけで数えて三度目のキスだ。
「ん……んん………」
 そして、最も情熱に溢れたキスでもあった。重なった唇の内側で舌先が触れ合い、どちらからともなくそれを絡め合って、吸い寄せ合った。
「んふぅ……ちゅ……ん……んぅ……」

 ちゅっ、ぬちゅっ、ぬちゅるっ……

「んん……ん……ふ……んふ……」
 艶かしく交わる舌の音。そして、重なる唇の奥から響く桜子の切なげな吐息。
 “ラブホテル”という、名前からして積極的な場所が、その興奮をさらに煽り立てている。それが、熱く、深く、長く、甘い口づけとなって、二人を結んでいた。
「んぅっ……んっ……ん……はぁっ……」
 長い時間、貪るように舌を絡め合わせていたが、ようやく顔を離した。幾重もの銀糸が、二人の昂ぶりを物語っている。
 この部屋に入った時点で、同意は得られているのだ。身体を重ねて愛し合うことに、ためらいは何もない。
「シャワー、浴びておいでよ」
 女の子なら、行為の前の禊は済ませたいだろう。しかも今は夏だから、ちょっと外を出歩くだけでも、すぐに汗ばんでしまう。


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