『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-270
「ん……」
桃源郷から帰還した晶の目に入ったのは、逞しい夫の胸板であった。それは穏やかに上下しており、軽い寝息も聞こえてくる。
「あたし……」
まだ夢と現の狭間にいる。目覚める前後の記憶が、どうにも判然としない。状況を確かめるために、晶は身を起こして周囲を見渡す。ここは寝室で、閉じられたカーテンからは薄ぼんやりとした光が透き通っていた。
自分の身体を翻ってみれば、モノの見事に素っ裸である。冷房は電源が入っていないので、肌にはうっすらと汗が浮かんでいた。
「ん……晶……目が、覚めたのかい?」
「うん……おはよ……」
軽い寝息を立てていた亮も、晶の気配に目を覚ましてその身を起こしてきた。
「おはよう。……まだ、夕方だけどね」
「え……あっ、そうか……あたし、あのまま……」
ようやく意識が醒めてきた。
「あのまま……で……」
すると、亮の視線から隠れるように、その胸の中に顔を預けたのである。破廉恥極まりない姿を晒したことも、思い出したのだろう。
「恥ずかしい……」
「まあ、気にするな」
「無理……気にする……」
「どうどう」
そんな晶をあやすように、亮はその長い髪を梳くのだった。
「ありがと……体、拭いてくれたのね……」
「風邪をひくといけないからな。まぁ、また汗かいちゃったけど」
あの後、失神した晶の身体を寝室まで抱えて運び、汗やら何やらでべとべとになった彼女の全身を拭いて、自分もシャワーを浴びてから軽く眠りについた。熱気が篭る部屋で、冷房もつけず抱き合うようにして眠っていたから、汗にまみれている。
「ソファは……買い直し?」
「そうだな」
興奮が過ぎて、ソファの上で事を始めてしまい、そのうえ失禁までしてしまったわけだから、絨毯の生地にはしっかりと“染み柄”が出来ていた。
取り立てて高い買い物だったわけではないが、一時の乱痴で失うには安いものでもない。それに、適度な柔らかさがあるそれは、気持ちの良い転寝が出来る良い代物でもあった。
「ごめん……」
「俺にも、原因はあるから」
「でも……お、おもらし……したの、あたしだし……」
「まあ、気にするな」
「無理……気にする……」
「しょうがないな」
肩を落とす晶の髪を梳いて、もう一度優しくあやす。堂々巡りの会話を繰り返したことに亮は苦笑しながら、何度も晶の髪を撫でるのだった。
「んっ……ふぅ……」
髪にも性感帯はある。優しい手つきで撫でられていると、また、体の奥から熱が昇ってきて、動悸も激しくなってしまう。
(………)
また、亮のことが欲しくなってきた。 ソファに粗相をした件で落ち込んでいたと言うのに、収まりのつかない性欲が太股の奥から溢れて、花びらの内側に蜜をたっぷりと溜め込んだのだ。
全く自分でもあきれるぐらい、今日は貪欲である。試合の後の興奮が、まだ冷めていないと言うのだろうか。
(どうしよう……)
おねだりしたくてたまらない。しかし、あれだけの粗相をしでかしたのだから、また誘いでもしたら、夫は呆れ果ててしまうのではないだろうか…。
(時間も、そんなにないし……)
葛藤を乗り越え、ここは我慢をするつもりだった。ところが、である。
「晶」
「? あっ……ちょっ……と……」
起こしていた体が、仰向けになって倒れてしまった。亮に、押し倒されたのだ。
「ど、どうしたの……んっ…んん……」
彼の顔が間近に寄り、そのまま唇は塞がれた。
「んぅ……も、もう……また……するの……?」
「そのつもり、なんだろ?」
「あんっ……」
彼の指が、敏感なところに触れてくる。たちまちにして花びらからは蜜がこぼれ、彼の指に絡んで幾重もの糸を引いた。