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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-248

(えっ……)
 亮の様子を窺ってみた桜子は、彼が、普段は見たこともない厳しい顔つきをしていることに驚いた。温厚で柔和な雰囲気は微塵もなく、触れれば即座に切り捨てられ、三枚おろしにされてしまいそうな、鋭いオーラを纏った眼光である。
(こ、こんな恐い顔……初めて……見る……)
 今までにない、亮の厳しさ…。桜子は、はっきりとした怯えを感じてしまった。それがリードに影響したものか、二球目に彼女が要求したボールはアウトコースであった。
「………」
 勝負に集中している大和は、桜子の中に生じた“怯え”に気がつかない。内角を攻めた後に外角への一球を見せておくのはセオリーなので、リードに対する不審も今は抱かなかった。
「!」
 セオリーであるのは、亮も承知である。彼は、アウトコースへのストレートに反応を見せ、静から動へとその強烈なスイングを始動させていた。

 ギンッ…

「くっ!」
 狙い通りの球がきたことで、そのスイングには大きなベクトルが乗っていた。しかし、芯を捉えたはずなのに、バットから弾かれた打球は前に飛ばず、ファウルゾーンを転がるだけだった。
(捕まえたと思ったんだが……)
 鈍い手応えと手に発した“しびれ”が、球威に押されてしまったことを物語る。
(想像以上だな、これは……)
 自分のスイングを充分にこなしたはずなのに、思い描いた打球が飛ばなかったのは、亮にとって相当にショックなことであった。
 これで二つのストライクを奪った。早々と相手を追い込んだのである。だが、カウントで有利になったとはいえ、気持ちに余裕はない。
(いける)
 しかし、相手を詰まらせた直球の球威に、自信が湧き始めたのも確かだ。
(3球目は、どうする?)
 内か、外か。桜子の構える位置がどこに定まるか、それを待つ大和。自分としては追い込んだ勢いのまま内角を攻めて、一気に勝負をつけたいところだったが…。
(外か)
 桜子のミットは、アウトコースの際どいところに留まっていた。
 希望する場所とは違ったが、それに首を振ろうとは大和も思わない。強気なリードが小気味の良い桜子にしては、やや慎重な配球だというのが気にはなったが…。
「ボール!」
 追い込まれているとはいえ、際どいところに手を出すほど相手は甘くない。ボールは見えているようで、投じたストレートは簡単に見送られていた。
(Mm?)
 ベンチのエレナは、今の一球を見届けた瞬間、眉をわずかにひそめた。
(サクラ、らしくありませんでしたね。今のは、かなりもったいないです)
 二球目のアウトコースで、亮にベストスイングをさせながら詰まらせた勢い が、このボール球で萎んだように思う。 確かに勝負事に焦りは禁物だが、慎重になりすぎて、手に入れていた勢いを抑えてしまうことも、有益ではない。
(助かったな)
 亮としても、早い勝負を仕掛けられることを恐れていた。詰まってしまった手応えの悪さが、スイングのタイミングを見失わせていたからだ。もしも内角の厳しいところに一球投じられていたら、これを打ち放つ自信はなかった。
 ともかくこれで、ツーストライク・ワンボールとなった。カウントとしてはまだまだ投手が有利である。
 しかし、三球目に投じたボール球によって、大和の方に振られていた勝負の振り子は、均衡を取り戻してしまった。


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